新しい知に出会える空間として2020年で9期目を迎えた「国立本店」。2015年から運営を引き継ぎ、「ほんとまち編集室」室長を務める加藤健介さんは7年前からのメンバー。国立・多摩地域の魅力に引っ張られるように世田谷から国立に拠点を移しました。“市民がまちづくりの主体となる社会を後押しする専門家”として、国立市やほかの地域とも関わりながら活動。まちづくりを軸に多岐に渡り、地域で活動したい人たちをサポートしています。

| 至極の一言|

地域で人が活動したくなる、暮らしをよりよくしたくなることの応援がしたい


本と人、人と人が出会う場所「国立本店」

崎谷:以前、出演していただいた絵本作家のふくながじゅんぺいさんも参加されていた「国立本店」を代表として運営されています。改めてどういうことをされているのか教えてください。

加藤:「国立本店」は、JR国立駅から歩いて5分ほどの場所にあるコミュニティスペースです。本と街をテーマに、いろいろな活動をしたい人が集まる場所。10代から60代くらいまでのさまざまなメンバーが集まって、この場所で活動しています。毎年9月から8月までを1期とし、1年ごとにメンバーを募集する仕組みです。

崎谷:明るく、すごく素敵な空間ですよね。活動は本に焦点があたっているのですか?

加藤:「国立本店」の空間には、大きな本棚があります。正方形の棚が8列×5段あり、「ほんの団地」と名付けていますが、メンバーがここを1枠ずつ使い、それぞれが人におすすめしたい本を自宅から持ち寄って並べます。10~12月くらいまではメンバーの自己紹介、その後は3か月ごとにテーマを変えて企画しています。訪れた人に、いろいろな本に出会うきっかけを与え、自分と興味が合う人や、逆にまったく違う興味をもっている人がいることを知ってもらうことで、自然と交流が生まれるといいなと思っています。

崎谷:テーマを設定されていますよね。以前うかがったときは、縄文の本から漫画まで、いろいろな本が陳列されていて、見ているだけで楽しいなと感じました。

加藤:それは「図鑑」というテーマで本を集めたときですね。いろいろなとらえ方で図鑑を集めてもらったらどうなるかなとやってみた企画です。いわゆる図鑑や百科事典だけでなく、人によっては国語辞典も図鑑と思うかもしれない。スニーカー大全もありましたね。私はおばけの絵本で有名な絵本作家・せなけいこさんの大全を展示しました。

崎谷:せなけいこさん、ありましたね! 私も大ファンなので印象に残っています。メンバーはどんな方が参加されているのですか?

加藤:学生や、イラストレーター、デザイナー、本屋で働いている人、ほかにもさまざまな仕事をしている方が集まっています。ふだんは某企業でエンジニア、休日は製本家として和装本や洋装本を作る活動をしている方は、「国立本店」でも製本講座をされていました。たまたま近くに住んでいる大学の先生は、ラジカセやウォークマンの修理が得意で、うちも古いレコードプレーヤーを譲ってもらったときに修理してもらいました。


国立のまちづくりの入門書『国立新書』の編集に参加

崎谷:『国立新書』という本を出されたということですが、これには「国立本店」が絡んでいるのですか?

加藤:いいえ、これは私の方で編集のお手伝いをしました。国立市の発行で、おそらく自治体が発行するのは初めての新書シリーズ。その創刊準備号として『国立を知る』を作りました。前半はカラーで、幼児教育やソーシャルインクルージョン(すべての人が社会に参加できる環境)など、国立市が力を入れている事業の紹介。まちの歴史や、国立で盛んないろいろな市民活動も紹介しており、国立市のまちづくりの入門書になるといいなと制作したものです。

崎谷:国立といえば、駅前には新しく旧駅舎ができ、盛り上がりを感じます。

加藤:そのことも取り上げています。国立のまちを語る上でも、旧国立駅舎はランドマークとして欠かせません。私は新参者なので解体される前の状況は知らなかったのですが、十数年前に解体されたときに、なんとかしようという市民からすごい額の寄付が集まったそう。プラス補助金や助成金を使い、もとあった駅舎の7割ぐらいを利用して再築したそうです。そういうことも市民の方に知ってもらいたいと思っています。今後、テーマごとに1冊ずつ出していきますが、2巻で旧駅舎のことを紹介する予定です。


国立エリアを中心に、地域で活動したい人を幅広く応援したい

崎谷:最近は国立だけではなく、国分寺にも関わっているそうですね。

加藤:国分寺市役所と中間支援組織・NPO法人マイスタイルの共同事業で行っている「こくカレ(こくぶんじカレッジ)」のお手伝いをしています。国分寺の街で何か活動を始めたい、お店を開きたい、地域に仲間がいないから人と交流ができる状態を作りたい…などなにかをやりたい人を後押しするような連続講座です。国分寺は都心から30分。都心で働き、帰ったら寝るだけという方も多いですが、新型コロナの影響もあって地域に目を向ける人が増えました。そこから一歩を踏み出すのがなかなか難しいので、こういう場を活用してもらえればと思います。25名ほどを募集し、半年かけて活動します。実際に街で活動されている方の講演などのほか、プロジェクトチームを作ってグループワークをし、発表する。それで終わりではなく、そこから先、実際に活動を続けてもらいたいと思っています。

崎谷:イメージしているものがあっても、どこから一歩を踏み出すかが大変なところ。さらにそれを継続していくことは難しい。掘り下げながら、実際に動いていくという両方ができるのは、とてもいい訓練だと思います。多摩地域にはこういう場がたくさんあり、いい環境ですよね。加藤さんは、奥様ともいろいろ活動されているそうですが。

加藤:妻はフリーのライターですが、会社員時代は求人広告の営業の仕事をしていました。そこで得た気づきから、「国立人」という国立エリア(国分寺、立川、府中の一部も含む)限定の求人ウェブサイトを立ち上げ、活動しています。

崎谷:「国立人」が立ち上がったとき、非常にインパクトがあって印象に残っていました。加藤さんの奥様だったんですね。

加藤:求人サイトでは基本、給料はいくらなど条件面がメインで紹介されているものが多いと思います。「国立人」では、例えばお店なら、そのお店がどういう思いで活動されていて、実際にどういった人にいっしょに働いてほしいか、ていねいにお話をきかせてもらうことで、なるべく両者のミスマッチが起こらないようにしたいんです。働いてみたら、雇ってみたら、自分の感覚と違ったとなるとお互いにとって不幸なので、それは避けたいなと。今は妻が個人で取り組んでいますが、今後はリニューアルして、もうちょっと幅広くやっていこうと考えています。

崎谷:多摩には仕事に対して情熱をもっている方が多い印象があります。思いを込めてやっているというところまで掘り下げると、仕事は人のキャラクターのひとつみたいで魅力を感じます。加藤さんは本を作ったり、webを作ったり、イベントをしたり、さまざまなことをされていますが、今後どこに力を入れていきたいということはありますか?

加藤:じつはあまりなくて。地域で人が活動したくなる、暮らしをよりよくしたくなるということの応援ができればいいかなと思っています。そのなかで、その都度必要なことをやっていけたら。根幹がずれなければ、幅広くやっていきたいです。


Profile
国立市在住。「ほんとまち編集室」室長として、「国立本店」を運営。“市民がまちづくりの主体となる社会を後押しする専門家”として、主に住民活動の支援や参加の場づくり、広報の支援等を行う。2018年に合同会社三画舎を立ち上げ、日本ナショナルトラストとともに地域遺産を活かす仕組みづくりを、検討の段階から支援。くにたち文化・スポーツ振興財団が開催するアート事業「くにたちアートビエンナーレ」ではファシリテーターを務める。

合同会社三画舎

国立人

<インタビュー後記>

加藤さんとは今回のインタビューではじめてお話をしましたが、非常に誠実な人柄が話しているだけでも伝わってきました。「暮らしをよりよくしたくなる”ということの応援をしたい――という想いは、まさに加藤さんらしいお言葉暮。”暮らし”は毎日送っている日々の生活でありながら、雑に扱ったり、意識が薄かったり、忙殺されたりしてしまっています。それを”暮らし”として再認識することがまちづくりの第一歩。そんな素敵なお話でした。

投稿者

さきや 未央

★ 編集歴25年以上★「旅」と「子育て」雑誌を200冊編集★「観光とまちづくり」の取材を8年間★ 多摩の社長100人にインタビュー