アイデアをカタチにする商品企画・開発を行っている想画(ソーガ)代表の狩野雅代さん。商品企画のディレクターとして、企画・マーケティングから工場発注、製品流通、さらに補助金や特許庁の申請まで、「商品企画」のすべてに精通しているのが強みです。高い技術を持つ町工場が「自社製品」を生み出すのを助ける、「工場の助産師」として活躍中。東京・八王子を拠点に、地元の企業や多摩地域の町工場を巻き込みながらの企画も多く行っています。


発想力と調査力、トータルで商品化する技術と人脈が武器

崎谷:アイデアを商品として形にするのは、個人でやるのはなかなか難しいと思うのですが、狩野さんはアイデアの引き出しの多さに加えて、これまでの経験と人脈、工場との接点があり全部ひとりでされていますね。

狩野:ものづくりは小さいころから好きでした。いろいろな方と携わるなかで、アーティストというよりは商業ビジネスのデザイナーとして活動するようになりました。デザイン会社勤務時代は、商品であるものづくりだけでなく、パッケージからチラシ、ポスター……人数が少ない会社だったので全部やらなければいけない状況でした。

崎谷:立体も紙もPRも、全部やってこられたのですね。独立されてすぐ「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」の商品企画という大きなお仕事に?

狩野:ちょうど立ち上げの時期で、オープン日までにお土産グッズの棚入れをしなければならないというタイミングでした。「相当な数の作業があるから、独立して仕事をやってみたら?」とお世話になった社長が紹介してくださったのがきっかけです。ステーショナリーを担当して、USJのロゴ入りの文具をデザインして展開しました。

崎谷:商品を作るとき、アイデアを落とし込む作業はどのようにされるのですか?

狩野:今はインターネットで調べることもできますが、できるだけ足を運んで現場を見るようにしています。「ディズニーストア」の仕事のときは、実際に店舗に何度も足を運び、どういう層が何を買うかを見て市場調査をしていました。

崎谷:ヒット商品で、意外なもので反応が良かったということはあるのですか?

狩野:市場調査や価格設定から、携わっていると何が売れるかはだいたい感覚でわかってくるのです。企画の段階で「これは売れる!」と思ったものは、発注数を多めにして完売したときにすぐ再入荷できるようにストックを作っておく。それをできるのがプロだと思うのですが、作り過ぎもゴミになってしまうから難しい(笑)。

崎谷:廃棄することになると大きな問題ですからね。

狩野:「ディズニーストア」時代に、発注数を間違えて倍量作ってしまったママバッグがありました。担当の方も椅子から落ちそうなほどびっくりして(笑)。でも「もし完売した店舗があったら、1個ずつでもいいからリピートしてください」って謝りながら依頼しました。結果的には予定数の2倍その商品が売れたのです! 在庫がなくなるとすぐに再入荷できたので、営業担当が抱えていたノルマも2倍になり、大変喜ばれました!

崎谷:ものづくりをするときに、いちばん最初にやることはアイデア出しですか?

狩野:アイデアを持っていらっしゃる方はたくさんいると思います。そんなみなさんにアドバイスするとしたら、「こんなものが作りたい」と思ったら、簡単なものでもいいから絵を描いてみる。
次のステップとして、まずはインターネットで、市場にそれが存在するかを調べてほしいのです。だいたいあります(笑)。同じものを作ったらダメですからね。
ないなと思ったら、次は特許庁に申請できるかどうかを調べます。申請されていてまだ商品になっていないものもあります。タッチの差でも、申請されていたらものづくりはできませんし、似たようなものでもあれば類似品になってしまいます。
自社商品の「世界で一番使いやすいはちみつスプーン」も実用新案と、ネーミングの著作権を取っています。申請には時間がかかりますから、同時並行で工場探し、見積もりに入っていきます。

崎谷:申請が通ったから、狩野さんしか使えないのですね。何かアイデアを持っている人が、「これを商品にしたい!」って狩野さんに相談したらお手伝いいただけるのでしょうか?

狩野:できます!いっしょに作りましょう!


欲しいのになかったものを町工場の技術で商品化

崎谷:ディズニーストアやユニバーサル・スタジオ・ジャパンの商品企画を経て、狩野さんは現在、ご自分で商品を企画されていますが、コロナ禍では飛沫防止パーテーション「ガードンシリーズ」を開発されました。これはどういった商品ですか?

狩野:八王子でパーテーションを作っている町工場の方たちとタイアップして作りました。当初、パーテーションは対面用のものが多く、カウンターで隣の席との間に立てるものがなかったので作りたいと思ったのがきっかけです。テーブルから少し飛び出す形にして、隣との距離が近くても仕切れるものを作りました。

新型コロナウィルス感染症対策用に、八王子の飲食店、ホテル経営者の声を反映したパーテーション。アルコール除菌スプレーを使用してもひび割れしにくい商品です。
■飛沫防止パーテーション(カウンター用)飲食店や塾に最適サイズ 

崎谷:次々と欲しいものをカタチにされています。新商品は「世界で一番使いやすいはちみつスプーン」。これはどういうものですか?

狩野:小学1年だった息子が朝食時に、パンにハチミツをぬる時に、従来からある溝のついているハチミツスプーンを「もったいないから」と息子がなめたがるのですが、大きいからイライラしていて。
いいスプーンがないかなと探して買って使ってみたのですが、なかなか良いのがないので作ろうと思ったのがきっかけです。
サンプルが出来たときに老舗のはちみつ屋さんに渡したら、女将さんが「今まで使った中でいちばん使いやすい」と言ってくださって、作ってよかったなと思いました。味見スプーン代わりやいろいろな用途に使えるので、私は毎日使っています。

崎谷:商品をひとつ作るのに、何社も関わっているのですよね。

狩野:ものづくりは1社ではできません。パーテーションも4社ぐらいが関わっています。このスプーンは武蔵村山の工場ですが、パッケージは八王子の印刷工場にお願いしました。パッケージ印刷ひとつとっても、得意不得意があり、ロット数によってやってもらえない場合もありますが、なるべくmade in多摩で作れたらと思って活動しています。

崎谷:商品マーケティングだけでなく、工場のことをよく知っていらっしゃるからできることですよね。工場の力を引き出したいという想いをお持ちだとか。

狩野:幼少期から母がずっと縫製会社に勤めていて、工場は身近な存在でした。学校帰りにときどき寄るのですが、広い場所なので夏はなかなかクーラーも効かず大変だなと。
また、仕事で中国に検品に行ったときには、現地で10代の子たちが並んで作業している姿も見ました。どこの国でも、現場の人が一生懸命ものづくりをしている。縫製品にしても成形品にしても、社員を抱えている工場の社長さんはどこもコロナ禍でそれぞれ悩みや問題を抱え、大変ご苦労されています。

燃やしたときにダイオキシンが発生しない「紙とポリプロピレンを使用」したバイオマス樹脂で作りました。使いやすさの秘密は蜂のお尻のカタチ。
■世界で一番使いやすいはちみつスプーン 1,200円 

ものづくりに限らず、「いろいろなところを繋ぐ」活動を積極的に

崎谷:商品開発のほかにも、いろいろと活動されていらっしゃいます。がん患者のためのポータルサイト「メディモール」を立ち上げ中だとか。

狩野:これはものではないですが、商品企画という立ち位置でやっています。医療は難しい分野で、民間にいいものがあっても医療機器の審査には通らない状況。それを使うことができれば、年間の医療費が下げられるということを知っているドクターもいるのです。そこには仕組みづくりが必要で。がんや難病に悩む患者さん方の困りごとと、ドクターの声が届けられるような、ハブとなるシステム作りをしている最中です。

崎谷:ものづくりや工場だけでなく、患者さんと先生たちをつなぐ役……いろいろなところをつなぐ活動をされているのですね。

狩野:昨年の秋には、八王子の舘ケ丘団地で、親子スポーツ体験イベントを企画しました。団地にある保育園の園長先生と「子ども向けのスポーツイベントをしたい」という話をしていたのですが、たまたま近くに子ども向けの野球コーチをしている先生がいたので、その二人をお繋ぎしたのがきっかけです。
野球、バスケ、フットサルと子どもたちがいろいろなスポーツを体験できるイベントを企画し、あまり宣伝していなかったのですが、大変よろこばれました。今年もまた、春にできたらと企画中です。

わくわくドキドキ 親子deスポーツ体験会 in館ヶ丘(八王子市)

(Profile)
群馬県高崎市生まれ。東京都八王子市在住。地元の商業高校に進学した頃から漠然と「ヒット商品を作りたい」「特許を取りたい」という夢を抱く。卒業後は東芝府中工場へ入社。「ものづくり」をするために転職を志し、職業訓練校で洋裁を学ぶ。ファッションブランドの新作サンプル製作会社を経て、UFOキャッチャーの商品企画会社に転職。2001年に28歳で独立し、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンやディズニーストアの公式グッズの企画に携わる。2004年に想画(ソーガ)を設立し、iPodケースなどのオリジナル商品の通販を開始。現在は商品開発からチラシ・WEB作成まで幅広い事業を展開。商品企画のディレクターとしてメーカーや工場の間に入り、「Win×Win×Win」の関係性を大切にした商品開発を手掛ける。地元八王子市の企業と組んだ商品開発や企画も多数。地元の演歌歌手・伊達めぐみさんのマネージャーという異色の経歴も! 小学3年生の男の子の母。

想画(ソーガ)通販サイト HP 

投稿者

さきや 未央

★ 編集歴25年以上★「旅」と「子育て」雑誌を200冊編集★「観光とまちづくり」の取材を8年間★ 多摩の社長100人にインタビュー