4階建てのビルをリノベーションし、地域の文化拠点となる場「つながる文化ターミナルooen」を提供する小松さんご夫婦。新しいことにチャレンジする人を応援したい、そして、それを受け入れる気風を地域で持ちたいとの思いをもとに、伸一さん・千裕さんがご夫婦で運営しています。とても穏やかな印象のおふたりですが、アートやもの作りへのアンテナは秀逸。同じような周波数を持った人たちが自然と集まってくるような場所です。

|至極の一言|
「やってみようかな」を「やってみた」に変える場所を作りたい

4階建ての古い物件との出会いが活動内容まで膨らませていく

崎谷:つながる文化ターミナルooen(オーエン)」をオープンされたとのことですが、ooenとはどのような場所なのでしょうか。インスタグラムを見ると美味しそうな食べ物の写真が多いですね。

伸一:1階のシェアキッチンで出店しているお店のメニューや調理風景をよく載せています。コロナの時期は休止していましたが、最近は飲食スペースとして活用する機会も増えてきました。

崎谷:シェアキッチン以外にも文化という面にこだわって、ooenを開設されましたね。4階建ての建物をフルリノベーションされたということですが、初めからそういう大掛かりな構想があったのでしょうか。

伸一:4階建てといっても、一つ一つは3〜4坪ほどです。1階のシェアキッチンは、これからお店をやってみたいという人や興味のある方が利用しています。上の階では、ヨガなどのレッスンを定期的におこなったり、動画配信のスペースとして活用されています。

千裕:いろいろと物件を探しているうちに、突然一棟貸しの物件が出てきました。とても気になったので、まずは見に行ってみようと。

伸一:最初は、古い建物で駅からも遠いのであまり使う人はいないだろうな、という印象の建物でした。ここは元々とんかつ屋さんだったようでガスや水道などもひかれていました。飲食も提供できるる場所を想定していたので、ボロい建物だけれども自分たちでリノベーションを行って、スタートしました。
ooenではこれまでピラティスの動画配信や英会話教室を開催していたりします。教室を開こうと思って、ここを利用している人もいます。

崎谷:確かに教室を開かれる方が自宅でやるのは難しいので、こういう場所があるのはいいですね。

「つくし文具店」での出会いと繋がり

崎谷:ooenをオープンされる前は、中央線のコミュニティに参加して「つくし文具店」や中央線デザインネットワークに参加されていらっしゃったようですが、参加のきっかけは?

伸一:社会人になって2〜3年目で悶々としていた時のことです。働き始めて数年経つと誰しも「自分はこれでいいのか」と思う時があると思いますが、その中で職場の同僚がつくし文具店のWEBサイトを教えてくれました。
日直募集というのがあるよと。それまで存在を知らなくて何だろうと。読み進めるとお店番の募集で、面白そうだなと思い、「たまCH」にも出ていた店主の萩原修さんと面接しました。
ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、そこはオリジナルの文具を作っていたり、デザイン的に優れたものが置いてあったりするので、その文具店を目指していろんな人がやってくるお店です。

駅から遠いところにあるにもかかわらず、遠方からやって来る。例えば関西から来ましたとか。さっと買って帰る人はいなくて、多くの人はいろんな話をそこでしていく、コミュニティのような感じがありました。

崎谷:お客さんもそういう会話を目的に来店するということでしょうか。

伸一:そうです。そこで3年ほど経つといろんな繋がりが出来ました。その中で中央線デザインネットワークの活動にも携わることになり、中央線沿いのデザイナーやクリエイターを繋げて地域を良くしようという活動をしていました。どうやったら良くなっていくのか話をしたり、その地域にまつわるテーマを決めて作品を製作するなど、クリエイティブな活動をしながら地域を知るようになりました。

崎谷:大きなデザイナーグループの活動に携わってきた中で、デザインの可能性を感じられてきたのは、どのあたりですか?

伸一:「つくし文具店」で月に2度ほどデザイナーによるトークイベントを開催していました。その時にデザイナーさんがいろんな話をする訳ですが、どうしてデザインを始めたのか、どういうものを作っているのか、この先をどう見ているのかなど、デザインというよりその人自身の話がほとんどでした。
何かを作る時って、その便利さ、使いやすさ、見た目もそうなんですが、広くいうと社会の課題をどう解決するかとか、今までになかったものをどう作るかとか、誰かの助けになるとかそういう思想がデザイナーごとにあり、凄いなと思いました。
洗練されているということはあるのだけれども、どう解決するか、何に役立つかを考えている人が多くて、そういう人たちと社会で暮らしている人たちが接点を持つことが大事だなと考えるようになりました。

新しいものにチャレンジする人を、受け入れる度量のある地域へ

崎谷:デザイナーさん達に感化されていく中でポートランド旅行がキーワードになったそうですが、どういう旅でしたか?

伸一:もともと新婚旅行先を考えていた時に、メディアでポートランドがちょっとした話題になっていました。ポートランドが熱い感じだったので行って見ようということになりました。
アメリカっていろんな人種がいて、国自体がそうですが、ポートランドは特に若い人を含めてチャレンジするような風土があり、街全体もそれを受け入れている空気でした。洒落たコーヒーショップも多かったです。街を歩いたり、自転車を借りて街を回ったりした中で、自然とかアウトドア的なものが感じられ、一つのいい文化圏を体験できました。
地域の中で融通を利かせるというのでしょうか、クラフトビールの店とかがあるんですが、こういう味だったらこういう店があるよとか紹介しあうところがあり、自分のところだけでお客さんを囲むのではなく、地域で循環させていくようなところが面白いと感じました。
日本でもポートランドをお手本にしてみようという空気もあったりしますし、そういうエリアがたくさんできたら面白いと思いますね。

崎谷:日本式というか日本なりの?

伸一:日本だとポートランドみたいな多様性を培っていくには色んな課題があると思いますし、自分のやってみたいことをやってみようという、その辺の一押しは簡単なようでなかなか出来ない。そのきっかけを作るような場所や機会ができるといいなと。その辺がooenの一つのコンセプトになっています。自分で場所を借りてお店をやるとなるとハードルが高い。ooen以外にもシェアキッチンやシェアスペースが増えてきていますが、「ちょっとやってみようかな」と思ってるけれどもやらないで終わる人も多い。その次の「やってみました」という機会を作っていきたいです。

【小松伸一さん・千裕さんProfile】
2019年、杉並区今川にカフェ・物販・カルチャーイベントを複合させたシェアスタイル「つながる文化ターミナルooen」を開設。1階は雑貨・駄菓子などのセレクトショップのほか、シェアキッチンを設備。2階3階は各種教室やオンラインレッスンなどのワークスペースとして活用できる。小松伸一さんはプロジェクトデザイナーの萩原 修さんが店主をつとめる「つくし文具店」のメンバーとして活躍した経験から、ooenを企画し運営。千裕さんはピラティスのインストラクターとして活躍。

ooen HP

投稿者

さきや 未央

★ 編集歴25年以上★「旅」と「子育て」雑誌を200冊編集★「観光とまちづくり」の取材を8年間★ 多摩の社長100人にインタビュー