編集者・著者として長年活躍されている森恵子さん。2012年には「めでぃあ森」を設立し、幅広い分野の本の企画から出版までを手がけるコンサルティング、ブランディングをされています。また、「本を作るプロ」として、長年培ってきた知識と技術を活かし、ブックライター・編集ライターの養成講座「もり塾」を開校。新しいことにも貪欲にチャレンジされています。

|至極の一言|
惑わされそうになったら、初心に戻る。本当に自分のしたいことを考えて。

文字に起こしていくことで、自分のビジョンを明確にしていく

崎谷:本の出版を数多く手がけるなど、森さんはとても積極的に活動されています。今日もオンラインで出版カウンセリングを開催されるそうですが、どのようなお話をされるのでしょうか。

森:大きな象がいたら、足を触る人、尻尾を触る人、耳を触る人、みんな違うと思います。出版もそういうところがあって、いろんなものが入り乱れている世界です。私は30年以上ライティングや編集に携わり、本を作る上での流れ全体が分かっているつもりなので、そのような話をしています。「原稿を持っているけれども、これでいいのか」「本当はこういうことが書きたいけれども、どうしたらいいのか」など、本を作りたくなったらどうしたらいいのかというところです。

崎谷:具体的に見える形にするんですね。

大きな象の尻尾を触るのか、どこから初めていいのか、チャレンジしすぎて見えなくなってしまったという相談が(この放送を見てリスナーから)上がっています。本を出したくて、企画を方々に出されていらっしゃる方です。

森:そういう方、よくいらっしゃいます。そんな方には、「迷ったら、初心に戻りましょう」と伝えています。「マーケティングが」とか「それで商業出版ができるか」とか、いろいろとおっしゃる人がいるかもしれないけれども、本当に自分がしたいことは何なのか、書きたいことは何なのか、人の意見に惑わされないように。(そのリスナーの方は)そうやってチャレンジされてるわけですから、チャレンジは報われると思います。

崎谷:創業スクールなどでやりたいことを話すと、批判的なことを言われることがありますが、あまり聞かなくてもいいのかなと、最近思うようになりました。(人のアドバイスを)聞き過ぎると、やりたいことができなくなってしまうなと感じます。

私の周りにも本を出したい方が多くいらっしゃるのですが、本を書くことで、自分の経験を体系化できるというメリットがあるのかなと思っています。

森:自分でわかって実際に実践していることでも、本に文字で落とすとなると、自分のやっていることへの理解が違ってくるし、書くことで修正した方がいい点が見えてくる場合もあります。一冊書き上げることで、さらに実力が付いてきます。

崎谷:自分のやっていることなのに、自分の理解が足りない、わかる気がします。

森:文章を書き始めたら、文字にし難いところが出てきます。やっぱりそこが具体的に足りないとか、自分の中で曖昧にしていたとか、気づきになると思います。

また、本当に自分がいいと思ったところを大事にする。突き詰めるとしんどくなってきますが、それでも自分の価値観を形にするのは、楽しいはずです。それが、楽しくなくなったのならば、初心に戻ったほうがいいのです。

細かいことをいえば、(好きなことでも)しんどいことはいっぱいありますよね。けれども、大局的には自分の大好きなことをやっているのだから、まず真摯に、そして精一杯書いてみる。そこから始まる道は間違っていないと思います。

ライターのための養成講座。「もり塾」を開校

崎谷:森さんは、本を出したい人のサポートをしてくださっているのですが、ライティングする人のための講座「もり塾」を始められたそうですね。

森: まだライターとしてレベルアップしたい人やライターになりたい人のための講座しか持っていないのですが、本を出したいとか、いろんな目的で書く人のための講座も開設したいと思っています。

今やっている講座について言いますと、 書くことが好きで、それを仕事にしたいけれども自信がないってことはあると思います。基礎コースでは、課題添削の機会をたくさん設け、プロの文章に近づいてもらいます。さらに記事構成、文字校正、表記のルールなどライターとして知っておきたい基本的事項をきちんと伝えます。

崎谷:基礎コースが半年、実践コースが半年でしたよね。

森:そうです。合わせると1年になりますが、一生ものの技術を持ってもらいたいと思っています。

崎谷:実践コースではどんなことをやられるんでしょうか。

森:インタビューをしてもらいます。依頼前の準備、依頼文の書き方からアポの取り方、最後には文章にして、卒業の時にはブックレットにします。

自分でこの人を取材したいと思っても、初めからそういう仕事に恵まれることは難しいわけです。仕事の中ではまだできないから、1期生の彼女たちにとっては、自分で選んだ人をインタビューすることは、初めての経験になりました。

崎谷:どんな方にインタビューされたのでしょうか。

森:社会的な活動をされている看護師さん、鰹節ひと筋で食堂を営んでる方、ハーブガーデンを営んでる方、世界的なホテルのチェーンの社長になられた方や世界的に知られた女性シェフなど、みなさん自由にインタビューされました。大変だったけれども、楽しみながら学べたと思います。

崎谷:そのブックレットは、どこかで購入できるのでしょうか?

森:電子書籍にも仕立ててAmazonで販売しています。次の期では、冊子をAmazonで販売する予定です。

崎谷:すると、著者としてAmazonに名前が載るのですね。

森:そうなんです。お仕事獲得のツールにしてもらいたいと思っています。

仕事をする環境ではなかったこと。それが今の原動力に

崎谷:森さんの過去のお話も伺いたいのですが、最初は中学校の先生でいらっしゃったのですね。

森:中学で国語の教員を4年間やっていました。国語は好きだったんですけれども、校則とか生活指導が腑に落ちなくて辞めました。この4年で、自分が社会的に不適格な人間なんだと感じ、組織に属することに自信をなくしていきました。自分で選択したことでしたが、自分のことが何にもわかっていなかったんだと、今になって思います。

自分の好きな仕事しかしないと決め、書くことをしようと思いましたが、小さい子供がいたため、保育園の問題もあり、なかなか動けずに悶々としていました。その時代があったからこそ、仕事をするようになってから、「森さん、楽しそうに仕事するね」って言われていました。そりゃ、楽しいから仕事するんだものって。課せられたものであっても、好きなことだからと。

崎谷:私は子育てに疲れてしまうタイプだったので、仕事に復帰した時にはコピー取りさえ楽しかったのを覚えています。

森:分かります。子供が嫌いなわけではないけれども、その閉ざされた中で、母子密着みたいな時代。子供を粗末にするわけではないんですけれども、自分のやりたいこともあるわけですよね。

崎谷:当時はOLを見て泣きました。私はあの世界には戻れないんだなと。

森:崎谷さんもそうなんですね。そういう人は仕事を始めたら絶対に強いと思います。自分で選択した環境ではあるものの、仕事ができないジレンマが爆発するじゃないですか。そのエネルギーはとても強いと思います。人生にはそういう時代があってもいいかもしれません。

崎谷:森さんは、その悶々とした時代から投稿誌『Wife』を経てライターへ。家庭画報の『きものSalon』でも活躍されました。日本舞踊もされていらっしゃるのですね。

森:投稿誌『Wife』は創刊60年になりますが、私が会員になったのは、ちょうどバブル期の1980年代。どの業界も人手不足でしたが、出版界はことに好調でしたから、『Wife』編集部にも求人がたくさん来ました。高学歴の専業主婦は「出版界の猫の手」、助っ人になったというところでしょうか。

投稿誌に日本舞踊の読売の週刊誌で作家インタビューの連載をしたり、講談社の百年史で女性誌や童話全集について書いたり。好きな分野で仕事ができたのは、幸せなことでした。

崎谷:2012年には「めでぃあ森」を設立。今年は10周年になるんですね。大手出版社のお仕事や、ご自身で本を出されたりなど、色々と仕事をされていらっしゃいます。

森:未来がどうなるかわからないまま、今までなんとかやって来られました。

また、今夜はオンラインで「もり塾」の無料の体験講座をやります。ライターになりたい、なんとなく書くことをやってみたいような方もぜひライティング体験講座に参加していただきたいと思います。

Profile
中学国語教員を経て、編集者・著者として長年活躍。週刊誌で小説家を中心とした著者インタビューを連載し、取材した作家は300人以上。家庭画報『きものSalon』『読売ウイークリー』の連載、社史『物語 講談社の100年』の共同執筆編纂を経て、2012年に「めでぃあ森」を設立。医療、相続のハウツー本、古典芸能の解説本など幅広く手がける。大手出版社からの書籍編集を請け負うほか、自費出版のコンサルティング、2021年にはブックライター・編集ライターの養成講座「もり塾」を開校。著作『ハウスワイフはライター志望』(社会思想社)、『シネマきもの手帖』(同文書院)、『たったひとりの12年』(グループわいふ)、共著『本の本音』(生活情報センター)など。FM西東京「ほんの森」のMCとして活躍中。

投稿者

さきや 未央

★ 編集歴25年以上★「旅」と「子育て」雑誌を200冊編集★「観光とまちづくり」の取材を8年間★ 多摩の社長100人にインタビュー