コラージュを用いたカラフルな作風が印象的な、ふくながじゅんぺいさん。小さい頃から好きだった絵を描き続けるうち、副業でイラストの仕事をするようになり、絵本として持ち込んだ作品をきっかけに絵本作家になりました。国立に住まいを移してからは、本好きなクリエイターの拠点ともいえる「国立本店」の7期メンバーとしても地域で活動。今回は、ふくながさんの作品の原画を見ることもできる、「国立本店」でお話をうかがいました。
|至極の一言|
僕の書く絵柄はコラージュが特徴でカラフル。原色でベタベタ貼る人はいないので、そこは功を奏しているかな
家具職人からイラストレーター、絵本作家
崎谷:もともとはサラリーマンだったそうですね。
ふくなが:サラリーマンといっても、子ども向けの木のおもちゃやテーブル、椅子などを作る木工系の家具職人。もの作りが好きだったのでいい仕事でした。小さい頃から絵も好きでしたが、なかなか絵で食べていくのは……という風潮だったので、仕事にはしないだろうなと思いながらもずっと描き続けていました。ちょこちょことイラストの仕事を出版社からもらうようになり、少しずつそれで食べていけるようになって。イラストレーターから始めた感じです。
崎谷:イラストのお仕事は、やはり絵本や子ども向けが多かったですか?
ふくなが:そうですね。僕の書く絵柄はコラージュが特徴でカラフルなので、子ども向け、児童書系の受注が多かったです。
崎谷:コラージュとはどういう手法ですか?それに行きついたきっかけは?
ふくなが:美術系の学校に行っていたわけではないので、筆の使い方、色の塗り方が下手なんです。にじんだりして難しくて。そこで、色のついた紙を先にたくさん作っておき、それを切って貼る手法を作風にしました。有名なところでは、エリック・カールさんやレオ・レオニさんが第一人者です。切り貼りした紙で色を置いていけば、置き直せば色を変えられ、やり直しがきく。しっくりくる手法でした。
崎谷:ご自身で絵本のストーリーを考えるようになり、絵本作家としてデビューしたときはうれしかったでしょうね。
ふくなが:ちょっとテンション上がりました! 自分の作品が本屋さんに並ぶのは感慨深いものがありました。
崎谷:ストーリーはどうやって作るのですか?
ふくなが:まず「ライオンを描きたいな」など出したいキャラクターを決め、身のまわりのものを題材にすることが多いです。1冊目の『うわのそらいおん』は空想好きなライオンの男の子が主人公。僕も想像するのが好きなので、たてがみの部分が空で、空想することによっていろんな絵柄になるという想像力をテーマにしたお話にしました。ストーリーを考えるのは楽しいです!
崎谷:そのあとはどうやって作品を作っているのですか?
ふくなが:絵の具、クレヨンで塗った紙や、折り紙、チラシ……なんでも使います。デザインカッターというよく切れるカッターで切り抜いて、絵の下書きの上にパズルみたいにのせていきます。
崎谷:カラフルな色使いがふくながさんの持ち味ですが、色はどのように決めていますか?
ふくなが:原色が好きなんです。逆に繊細な色使いが出せない。デザイン系の学校で学んだ方は色の配色の知識があり、よくない組み合わせを知っていますが、僕はそのへんをすっ飛ばした感じの配色になっている気がします。「よくこの色を使ったね」と言われることも(笑)。ここまで原色でベタベタ貼る人はいないので、そこは功を奏しているかな。
本を通じて出会いがある「国立本店」との出会い
崎谷
:2017年に絵本作家としてデビューされてから、国立に引っ越されたとか。
ふくなが:2019年の冬までは地元・静岡に住んでいました。おかげさまで、定期的に絵本を出せるようになって、出版社との打ち合わせのたびに東京に通っていましたが、住んだほうがスムーズだなと。
クリエイター系は中央線沿線が多いという話を聞いたんですが、家賃との兼ね合いと、住みやすさでどんどん西側に。国立駅を降りたとき、第一印象がしっくりきて、めちゃめちゃ好きになりそうな予感がしました。
崎谷:中央線沿線でも、国立には独特の文化がありますよね。
ふくなが:学生さんも多く、治安がよさそうだし、すごく住みやすいです。駅前の大通りから谷保までが生活スペースですが、古い商店街もおもしろいし、ほどよく緑が残っています。東京に来たわりに刺激は少ないけれど(笑)、ごみごみした感じがなく、清潔な街だと感じました。
崎谷:ここ「国立本店」はどういう場所なんですか?
ふくなが:もともとは本が好きな人、本にかかわる人のためのコミュニティスペースです。月額料金を払った約20~30人のメンバーは、12畳ほどのスペースを自由に使っていいことになっています。
メンバーは1枠ずつ棚を持ち、毎月みんなで決めたテーマに合わせて選書したおすすめの本を置きます。月替わりの店番担当者がお店を開け、ふらっと街の人や通りがかりの人が入ってきたら、おすすめの本談義をしたり、お茶を出したり。強制的に何かをしなくちゃいけないということはなく、自由度は高いです。
崎谷:どういうきっかけで、ここに関わるようになったんですか?
ふくなが:東京に来て、フリーランスだと会社勤めで知り合いができるわけではなく、居場所がないので、シェアスペースみたいな拠点づくりをしてみたいと思っていたんです。
国立でおもしろそうな人が集まる場所はないかなと調べて、ここがヒットしました。僕は絵本の仕事をしていますが、作家やクリエイター系のほか、学生さんや大学の先生、サラリーマンやエンジニアなど、いろいろな方が所属しています。
それぞれ趣味も違い、好きな本のジャンルが幅広い。新しい本を知るという意味でも、「本」というくくりだけで集まった人たちと知り合える意味でも、おもしろいです。
崎谷:すごく居心地のいい空間ですよね。入りやすいし、入ると居座ってしまう。本を介して、地域に根付きながら活動しているんですね。
ふくなが:僕はここで原画展をやらせてもらいました。ちょっとしたイベントや人を招きたいときにも使えます。コーヒー好きな人が店番のときは、自分で焙煎したコーヒーを出していました。接客の仕方もメンバーそれぞれでおもしろいです。
地域の民話や昔話を絵本にしたい
崎谷:絵本作家として、今後描いてみたいテーマはありますか?
ふくなが:縄文時代や古代が好きで、民俗学や昔ばなしも好き。「桃太郎」のようにみんなが知っている王道のストーリーではなく、そのうち忘れられてしまうような地域に根差した短い民話などを掘り起こしたい。東北地方には雨月物語や有名な妖怪話などがいっぱいありますよね。そういったものが掘り下げ切れていないような市町村と組んで、絵本として残せないかと画策しています。
崎谷:絵本作家さんなら掘り下げてデフォルメできますよね。
ふくなが:歴史好きな人なら掘り下げて知っているようなことを、絵本の力で読みやすく表現できないかなと。国立は意外と新しい街なのであまり聞きませんが、多摩地域にも昔話がいっぱいありそうですよね。古い神社に残っている遺跡の、短い文章だけの昔話とかをかいつまんで、オムニバス形式で絵本にできたら、きっとやりがいがあると思うんです。
<インタビュー後記>
見ているだけで楽しくなってくる――それがふくながさんの絵本の魅力。常に絵を描き、絵で表現し、また一歩前に進む。そんなクリエイターならではの日常を送り、地域とも関わっています。仕事であり、生活であり、自分であり、町である。そんな曖昧な境界線のなか、想像力がますます掻き立てられていくようです。個人的には、地域の民話を掘り下げ、本にする仕事を一緒にやりたい!!!
<プロフィール>
絵本作家。サラリーマンをしながら副業でイラストレーターに。持ち込みをきっかけに絵本作家になり、2017年『うわのそらいおん』(金の星社)でデビュー。同著で第6回静岡書店大賞受賞。『しろちゃん しろねこ おしゃれずき』(絵本塾出版)、『へんしん!いろいろれっしゃ』(交通新聞社)、『おててだあれ?』(角川書店)などの著書がある。イラストレーターとしても書籍や広告で活動中。コラージュを用いたカラフルな世界を表現する。国立市在住。