多摩信用金庫(たましん)時代から、多摩エリアでプラットフォームやネットワークづくりをけん引してきた長島 剛さん。抜群の行動力と広い視野、経済的視点とまちづくりの視点の両方をあわせ持ち、新たな仕事や活動を作り出すシーンに立ち会ってきました。2019年から多摩大学経営情報学部教授として出向し、2020年には産官学民連携委員長に就任。教える立場となった今も、「地域」をキーワードに人材をつなぎ、より豊かにしていくための仕組みづくりをしています。

|至極の一言|
地域の方々と大学のハブ役になればいいなと思っています

金融マンから大学教授に。“日本一企業に連れていくゼミ”

崎谷:経営情報学部ではどういうことを教えていらっしゃいますか?

長島:地域金融論、事業デザイン論、地域ビジネス入門、多摩学とか…「論」や「学」をつけると大学の授業らしくなるらしいです。30年以上多摩信用金庫に勤務し、縁あって多摩大学の教員になりました。信用金庫に勤めていると、朝8時に会社に行き、残業がなければ夕方5時ごろまでの勤務。月曜から金曜まで毎日同じような生活ですが、大学も決まった曜日に授業をやれば、ほかの日は休みだろうって思っていたんです。おいしい仕事だな…と思っていたら、授業の準備をしなくちゃいけないし、授業以外の仕事も多い。かなりブラックでした(笑)。

崎谷:学生さんと一緒に企業にも行かれているそうですね。

長島:「N教授のカバン持ち」ということを延べ160回以上実施しています。私は、企業や自治体の課題解決のために現場訪問をしていますが、そこに学生を連れて行きます。参加する学生は横にいて話を聞いているだけでも、気づきがかなりあると思うのです。大学の中で一番、企業や自治体を回っているゼミだと思いますよ。

崎谷:カバン持ちをしながら、どういうことを相談されているのか横でリアルに学べるんですね。

長島:社長さんによっては最後に「今日はどうだった?」と名刺を渡してくれたり、「ところでキミはどういうところに就職したいの?」などとコミュニケーションをとってくれたりします。年間200~300人、学生だけでなく教員も連れていくので、そこから大学でいっしょに共同研究をやりたいという話になる場合もあります。そういうことが広がって、地域の方々と大学のハブ役になればいいなと思っています。

崎谷:学生さんたちの反応はどうですか?

長島:やっぱり生を見ると違いますよね。自分でも覚えていますが、座学で教育されても実感はわかない。フィールドワークでリアルを見て、座学をやるということをくり返して、学びが深まるのだと思います。

コロナ禍では高校生、大学生が企業に行けなくなりましたが、その時期も多摩大学はリアルにこだわっていました。夏休みには多摩地域にある企業に学生を2~3人連れて行き、そこからZoom配信するというオンライン会社見学会をやって盛り上がりましたよ。

学生から「社長さんだけでなく、歳の近い若手社員さんの話も聞きたい」という要望が出て、20代社員へのインタビューも行いました。専門的な用語でなく、学生にわかりやすい言葉で話してくれるのがいいですよね。

崎谷:私も長島さんのゼミに入りたい! 一般人の受講は受け付けていないんですか?

長島:社会人大学院もあるので200万円払うと2年間で卒業できますよ(笑)。

信用金庫と大学、共通のテーマは地域連携

崎谷:地域連携のようなことをしていらっしゃいますが、それが必要だと思って信用金庫からスタートをきられたんですか?

長島:信用金庫に勤めたのは特に理由があったわけではなく、計算が得意だったんです。そろばんとか暗算とか、数字が大好きだったので、それを使う金融機関がいいなと。実際、入社したときはまだそろばんで計算している時代で重宝がられました。すぐにコンピューターにとって代わられましたが。

信用金庫で仕事をしているうちに、地域の中でたましんという一企業が中核にいて、地域のことを俯瞰して見ていてくれたら素敵なんじゃないかと思い始めたんです。金融機関は何を売っているわけでもなく、お金を融通しているわけですが、どこにでも訪問できる。市役所にも、NPOにも、大学にも企業にも、お金を持っている人のところにも持っていない人のところにも行けます。つなぎ合わせをやる中間支援機関として、価値があると思いました。多摩にある30の市町村のことを、もう少し広い世界の中で考えてくれる人がいるといいなと思い、地域連携、広域連携に興味が出てきたという感じです。

崎谷:今では学生さんを地域につないでいますね。先生になられてから、考え方が変わったことはありますか?

長島:まったく同じ、やっていることは変わらないですね。大学生のときに、地域のとっておきの企業を知ることができたり、経営者や社員と関わることができたら、自分の人生を見つめる機会にもなりますし、就活にも役立ちます。若者のエネルギーはすごいですよ。

崎谷:市町村には目に見えない境界線みたいなものが意外とありますよね。小金井公園の桜マップを作ったときに、小金井公園は小平市・小金井市・西東京市にまたがっているので、3市全部に確認しなければという状況になりました。国も「市町村レベルで連携しなさい」という感じになってきていますが、難しい部分もあると感じています。

長島:役所の人たちと話していても、ほとんどの方がそれに気付いています。マップを刷るとして、自分の町だけカラー、隣町はモノクロなんてよくないよねとわかっていながら、やらざるを得ない。選挙や予算との関係ですよね。予算を隣町のために使うのは難しい。

でもゴミの問題では多摩地域の中で連携していますよね。観光なども広域連携していくのが重要だし、そうした流れにはなり始めている。そこをビジネスチャンスとして、民間企業やNPOが入っていくと、よりスムーズに流れるようになっていくと思います。

多摩地域の魅力とベッドタウンからの変化

長島:多摩地域の数字を見ていておもしろいのは、ベッドタウンだから都心との関係が深いのかと思うとそうでもなく、隣の町との付き合いが多いんです。例えば小平市役所に勤めている人は、近隣の市に住んでいる人が多い。国分寺市も府中市も同じ状況になっている。そのあたりにビジネスチャンス、ネタがあるんじゃないかと思います。

崎谷:多摩をよくしていきたいという想いはみなさんにありますよね。『BALL.』(けやき出版)の取材で長島さんに多摩の魅力についてうかがったときに、「今後はベッドタウンではなくなる」というお話がおもしろかったのですが、どう変わっていくのでしょうか。

長島:昼間と夜の人口を比べると、昼間はみんな都心に行って夜帰ってくるから、夜のほうが多いのが普通だと思っていますよね。ところが武蔵野市、立川市、工場が多い瑞穂町、ベネッセやJUKIの本社がある多摩市では昼間の人口のほうが多いんです。さらにテレワークの人たちも増え、ベッドタウンの在り方がここへ来て急激に変わってきました。行政や民間が提供するサービスにも変化が起きていくと思います。

崎谷:お話を聞くまで、その転換に気付きませんでした。いつまでもベッドタウンだと思い込んでいました。今一番変わってきているのはどのあたりですか?

長島:どこもかしこもなのですが、多摩市は変わっていますね。知らず知らずのうちに企業の本社がかなり増え、美術館・博物館がオープンしています。KDDIが新しいビルの中に携帯電話の博物館を作り、その横の長谷工のビルにはマンションミュージアムがあります。マンションの歴史を見ることができておもしろいですよ。

崎谷:多摩市は観光との相性がいちばんいい市町村だなと思って興味があります。

長島:立川も三鷹も再開発でおもしろくなっています。多摩地域の歴史を調べていくと、各市町村ごとに市史があるんです。読むとおもしろいですよ。たましん発行の季刊郷土史『多摩のあゆみ』も読みごたえありますね。ホームページからもアーカイブが見られます。大学でいろいろ調べていると、結局自分のいた会社にいちばん情報があるんだと思いました。

Profile
法政大学大学院社会学研究科卒業。1988年、多摩中央信用金庫(現・多摩信用金庫)入庫。価値創造事業部部長、地域連携支援部長、融資部部長を歴任。2019年4月より、多摩大学経営情報学部教授。専任教員として、地域金融論、地域ビジネス入門、事業デザイン論、多摩学などを担当。「ながしまつよし研究室」として地域連携、地域金融をテーマに活動。日本フィランソロピー協会理事の顔ももち、パンづくりはプロ級という一面も。

ながしまつよし研究室:https://oyazipan.com/

投稿者

さきや 未央

★ 編集歴25年以上★「旅」と「子育て」雑誌を200冊編集★「観光とまちづくり」の取材を8年間★ 多摩の社長100人にインタビュー