フレームドラムの奏者であり、制作者でもある久田祐三さんは、東京・立川市を中心に、民族打楽器・自作楽器・中世古楽等の演奏に加え、 音鼓知振として楽器制作・出店・レッスン・ワークショップ等、精力的に活動しています。
フレームドラムは世界最古と言われている片面太鼓のこと。水・土・火・風を表す音とリズムを奏で、その用途は祭事からポピュラー音楽まで幅広く、今も昔も変わらず世界中の人々のそばにある音を体現する打楽器です。
久田さんの指先がドラムの皮を軽やかに弾くと、魂が揺さぶられるような音色が響き渡ります。

|至極の一言|
1から楽器を作る事に向き合うことで、楽器への思いやりがもてるようになりました。

さわれば音が鳴る喜びでドラムの虜に

崎谷:フレームドラムは世界最古の太鼓と言われているそうですね。

久田:そうですね。諸説ありますが古代メソポタミア文明の時代から存在しているらしく、起源はとても古いそうです。

崎谷:フレームドラムとはどういったものでしょうか?

久田:木枠に片方だけ皮を貼った太鼓です。みなさんに馴染みがあるものだと、タンバリンもフレームドラムなんですよ。大きいものだと50センチくらいあって、大きな寿司桶くらいの大きさです。
手で叩くものもあれば、撥を使って演奏するものもあります。
水の音、火の音、土(大地)の音、風の音、この4種類を表現して様々なリズムを奏でます。

崎谷:原始的で魂が揺さぶられるような音色ですよね。

久田:太鼓ってそういったパワーがありますよね。日本には昔からお祭りや和太鼓があるので、元々太鼓自体が好きな民族なのかなと思います。
フレームドラムは指でちょっとさわっただけで音がでるくらい繊細なので、音は小さいですが表現の幅がとても広いです。

崎谷:なぜフレームドラムに興味を持ったのでしょうか?

久田:学校教育でならった音楽は西洋音楽(クラシック的な)が中心で、どうしても楽しいと思えなかったんですね。兄がバンドをやっていた影響で若い頃にベースをやってみたけれど挫折した経験もあります。
音楽が楽しいと思ったのは旅で出会った民族楽器に強く惹かれたからですね。沖縄でアフリカの打楽器のジャンベに出会ったときにビビビっときて。
浜辺の水平線で叩いているのを聴いて、自分もやりたいと思いました。誰に聴かせるわけでもなく、自分が感じて自然の中で楽しむ。日々の生活の中に音楽が共にある人に出会って魅力を感じました。
限りなく純粋な音楽だと思ったんですよね。

崎谷:純度が高いですね。

久田:そして太鼓はさわれば音が出る!言葉にならない感情を表現できる。その喜びで病みつきになってしまいました。間口が広いから入りやすい。でもやってみたら非常に奥深い。
竹富島で出会ったことも大きいかもしれません。竹富島の夕日ってなかなか沈まないんです。沈んだ瞬間に闇になる。その光景がドラマチックでした。

崎谷: 出会ったタイミングによって感じるものが違いますよね。

野生動物写真家の父の影響

崎谷:お父様が野生動物写真家だそうですね。どういう人でしたか?

久田:もともとはサラリーマンでしたが、お金に縛られた生活に疲れてしまったらしく、自分が物心ついたときには仕事を辞めてフリーの動物写真家になっていました。同級生の父親とはどこか違うとは思っていましたが、海外や山奥に入って写真を撮っている父が我が家では当たり前でした。
音楽をはじめてフリーランスになってから、ようやく父がどういう志をもって活動していたかわかるようになってきましたね。今はとてもいい関係で自分の活動も応援してくれていますし、心から尊敬しています。

崎谷:今の久田さんの活動はお父様の影響もありますか?

久田:生きがいを見つけた父の影響は少なからずあるかもしれません。自分もサラリーマンを7年半やっていましたが、父のように一生情熱をかけられるようなライフワークがほしい、と思うようになったんです。
会社を辞めてから父の友人のアーティストの方に話を聞いたり、CDジャケットを作ってみたり、いろいろなことをやってみました。同級生との再会からご縁があってタイに1ヶ月滞在する機会があって、その翌日に王宮の広間でやるコンサートがあったんです。
世界の太鼓と踊りが集まったドラムフェスティバルで、見たことも聞いたこともない民族楽器がたくさんあって、普通のロックやポップスしか知らなかった自分にとっては「こんな音楽があったのか!」と、まさにカルチャーショックでした。これがはじめての民族打楽器との出会いで、とても心に残っています。初めての海外一人旅のタイでの滞在も、日本から離れてひとりの人間として様々な人たちや多様で自由な生き方に触れられて、今につながる貴重な経験になりました。

崎谷:家族の職業ってじわりと影響力がありますよね。

出会いに導かれて

崎谷:立川を中心に活動されているんですよね。

久田:はい。生まれも育ちも立川で、今も立川に自宅兼工房を構えて活動しています。出店や出演も多摩地域が多いです。

崎谷:立川ではいろいろな交流があるのでしょうか?

久田:立川にはお世話になった店がいくつかあります。もう閉店してしまいましたが『あちゃ』という喫茶店では息子のようにかわいがってもらいました。そのマスターの影響でハンチングをかぶるようになったんです。そこでつながったご縁がたくさんあります。
作家デビューするきっかけになったのは『ガレリアサローネ』。今は移転してしまいましたが、ギャラリー併設のカフェであり美容室です。
それまではサラリーマンをやりながら演奏をしていたんですが、仕事と音楽のバランスをとるのが肉体的、精神的に辛くなってしまって、思い切って会社を辞めたんです。路頭に迷いそうになった時、自分の経験から世の中に提供、貢献できるものはないか?と考えていて、ある方の助言から鹿の皮を活用してフレームドラムを作ってみようと思っていた頃にオーナーの関さんと出会いました。
はじめて作った楽器を展示してもらって以来、今も関さんと交流が続いていて、とてもお世話になっています。

崎谷:いい出会いを体験されてるんですね。

久田:知り合いのダンサーさんの舞台で打楽器奏者に欠員が出て、ピンチヒッターで演奏したのが初舞台です。
出会いが次の出会いを連れてきてくれるので、今こうやって活動できているのもみなさんとドラムに導かれてるとしか言えないですね。

崎谷:運命的なものを感じますね。演奏と制作をやっていることで、双方に影響はありますか?

久田:今までは購入していたフレームドラムを1から作ることで、楽器への思いやりがもてるようになったかもしれません。慈しむ気持ちというか……
思いのままに感情を表現できるのは太鼓のいいところですが、その分自分の心もそのまま出てしまうので、これまで以上に大切に愛情をもって叩けるようになりました。

崎谷:フレームドラム以外にも楽器を作られているんですよね。

久田:余った動物の皮を使って小さな楽器も作っています。本皮シェイカーやフレームドラムの首飾り等さまざま。木のバードコールは鳥獣保護員でもあった父からのアドバイスを聞いて作りました。

崎谷:小鳥のさえずりそのものですね!

久田:自然の恵みである材料を余すことなく有効活用するのも制作者の使命だと感じています。
フレームドラムや小さな打楽器たちの素朴で心地良い音色を、日々の生活の良き相棒として少しでも多くの方に楽しんでいただけたら嬉しいです。

【久田祐三さんProfile】
立川市在住。日本初のフレームドラム専門工房「音鼓知振」の制作者であり演奏者。旅を通じて民族楽器に出会い、太鼓の魅力に惹かれる。中世古楽アンサンブル・自作楽器デュオ・打楽器トリオやソロ・サポートでの演奏の他、楽器制作・出店・レッスン・ワークショップ等幅広く活動。国内で有害駆除された鹿皮の有効活用をする等、環境に配慮した活動にも精力的に取り組んでいる。

フレームドラム工房・音鼓知振
https://www.facebook.com/onkochishinframedrum
https://www.instagram.com/onkochishin_framedrum

投稿者

さきや 未央

★ 編集歴25年以上★「旅」と「子育て」雑誌を200冊編集★「観光とまちづくり」の取材を8年間★ 多摩の社長100人にインタビュー