「Second Story Coffee Roasters(セカンド・ストーリー・コーヒー・ロースター)」の哲学は、コーヒー生産者たちの歴史や思い、「1ststory」を伝えること。そして公正に取引された高品質なコーヒーという飲み物を介して、それを楽しむ人々のあたたかい繋がり、「3rd story」を築いていくこと。タイの山岳少数民族アカ族が栽培するコーヒー、悲惨な内戦を乗り越えて発展するルワンダのコーヒー、兼業農家が少量栽培するミャンマーのコーヒーなどを、直接訪問し信頼関係を築いた農家から輸入し、焙煎・販売しています。

| 至極の一言|

コーヒーは社会福祉ができる飲み物なんだ


2代目SSCRへのきっかけは、タイを旅して出会ったコーヒー農園

崎谷:「Second Story Coffee Roasters」という店名にはどういう思いが込められているのですか?

水谷:私たちのコンセプトはストーリー。すべてのものにはストーリーがあるということを大切にしています。
コーヒーにも栽培の歴史、作る人たちの思いや人柄といったストーリーがある。コーヒー生産者の方たちの「1st story」を、私たち「2nd story」が引き継いで焙煎し、それが飲む方(消費者)の元に届いて「3rd story」が作られていく……
その間に立ちたいという意味が店名に込められている「Second Story Coffee Roasters(以下SSCR)」は、2017年に静岡で始まったビジネスです。創業した初代オーナーはブライアン・オダネルというアメリカ人男性。僕は2020年4月から引き継いだ2代目です。

崎谷:水谷さんがSSCRに関わるようになったきっかけは、タイへの卒業旅行だったそうですね。

水谷:2018年に大学を卒業したのですが、最後の冬休みに一人で海外を旅してみたいと思ったんです。コーヒーは昔から好きで、大学の近くの喫茶店によく行っていました。そのお店がタイのコーヒーを扱っていて、オーナーさんにタイを勧められて。そこでタイに行き、生まれて初めてコーヒー農園を見ました。
タイ最北端のチェンライという町にある有名なコーヒー農園で、たまたま居合わせたバリスタさんから勧められたのが、SSCRでも扱っている「アボンゾーコーヒー」という農園でした。山岳地帯にあるドイチャン村の山の中にある農園で、おしゃれなカフェが併設されています。
アカ族という少数民族が担い手。タイには十数種類もの少数民族がいますが、山の中では満足な教育や医療が受けられず、ビザや国籍の問題で自由に移動ができず、貧困に苦しんでいる人たちもいます。コーヒーを通じて、彼らの役に立てたらと思いました。


運命的な出会いに導かれ、SSCRへ

崎谷:大学卒業後は一度、別のところに就職されたとか。

水谷:タイから帰った後、Facebookで「一人旅でタイに行き、コーヒー農園で誰がコーヒーを作っていたのか初めて目の当たりにして感激した」ということを投稿したんです。「アボンゾーコーヒー」や農園主さんをタグ付けしていたら、日本の関係者の方から「アボンゾーコーヒーの豆を販売している焙煎所が静岡にある」というメッセージをいただいて。いつか行けたらいいなと思っていたら、就職が決まっていた会社の配属先が静岡になったんです。

崎谷:運命ですね!

水谷:これは行くしかないなと。静岡のSSCRに行くと、そのコンセプトが刺さりました。1杯のコーヒーを通じて、誰が作っているのかを知ることで僕たちはコーヒーを楽しめる。そのコーヒーを輸入し、焙煎して売ることで、農園の生産者たちの教育支援や生活の向上のためにできることがある。
コーヒーは社会福祉ができる飲み物なんだと初めて実感しました。自分でもびっくりしたのですが、その場ですぐ「ここで働かせてください」と言ってしまって、今に至ります(笑)。

崎谷:初代オーナーのブライアンさんからは、どういうものを引き継がれていますか?

水谷:焙煎の技術や豆の保存、ドリップ方法など技術的なことはもちろんですが、いちばん大きかったのは彼がいつも笑顔で仕事をしていたこと。アメリカ的なんだと思いますが、「できる!できる!」「きっと大丈夫だ」といつもポジティブな言葉をかけてくれるんです。僕はどちらかというと反対のタイプだったのですが、1年半いっしょに仕事をするうちに、そういう考え方やメンタリティを学びました。

崎谷:ミャンマーのコーヒーは水谷さんが自分で道筋をつけて仕入れられたそうですね。

水谷:いろいろなご縁で、ミャンマーの農園関係者や、輸入されているロースターの方と知り合う機会があって。ちょうどタイのコーヒーが在庫切れで、ルワンダのものしかなく、新しくアジアのコーヒーを開拓したいと思っていたタイミングでした。ストーリーが大切なので、どこのものでもいいわけではない。自分で直接行った場所のものを買いたいなと、ミャンマーのコーヒー生産者の方にコンタクトを取り、現地に行ってお会いし、どの豆にするか決めるというすべてのプロセスを、ブライアンではなく自分の力でやりました。


農園の思いが伝わるアジアのコーヒーを東小金井で販売

崎谷:現在は東小金井の「大洋堂書店」併設のカフェで週1回出店されていますね。DIYされた店内はウッディな感じでとても素敵です。

水谷:2019年に静岡から西荻窪に移転し、ブライアンの帰国にともない今の東小金井に移転しました。「オシオ ヒーリングスペース&カフェ」さんとビジネス提携し、焙煎機を共同利用し、「オシオ」さんの定休日にあたる水曜日に私が店を使っています。
「大洋堂書店」さんは50年以上続く歴史のある書店。奥のスペースでは、タイマッサージをしています。店内は落ち着いて自分の中の悪いものや焦りを開放して整えようというようなコンセプト。近隣のママ友さんたちのコミュニティにもなっている素敵な空間です。SSCRとの相性がいいなと思いました。

崎谷:2代目の水谷さんらしいSSCRの形というものはありますか?

水谷:初代オーナーが大切にしていたストーリーを伝えるということ、コーヒーを通じて横のつながりや輪をどんどん広げていこうということはしっかり受け継いでいきたいです。
静岡の創業当初を知らないことが自分の中では負い目なので、SSCRの神髄、コンセプトをきちんと理解できているのか、いつも自問自答しています。
タイのコーヒー農園でコーヒービジネスを志したことをきっかけに、ミャンマーやネパールをはじめとしたアジアの農園に強い関心を持つようになりました。どこか大地の味がする、落ち着いた味が僕自身好きということもありますが、歴史的にも日本と関わりが深く、近いアジアの国のストーリーはイメージしやすく伝わりやすい。
これからもアジアのコーヒー農園をどんどん訪問して、関係を広げて行けたらと思います。

崎谷:今後はコーヒー農園ツアーもやりたいそうですね。

水谷:日本でコーヒーを飲んでいる消費者の人たちと、直接農園を訪問して、そこで出会った人たちや種族を紹介したい。
現地の生産者の方といっしょに寝泊まりし、同じものを食べ、コーヒーがどうやって栽培され、収穫され、私たちの元に届くのか、働いている人たちの生活を目の当たりにしたり、子どもたちといっしょに遊んだり……
僕がしたのと同じ経験をみんなにしてほしいんです。
理想的は、日本でコーヒーを飲むときに、「〇〇くん、元気かな」「〇〇ちゃんの子どもはいくつになったかな」と、コーヒー農園の親戚の家族を思いながらSSCRのコーヒーを飲むような。そういう関係性を築けたら、飲む人とって特別な、オンリーワンのコーヒーになるんじゃないかと思っています。

<インタビュー後記>

SSCRについて話すときの目の輝きがとても印象的。水谷さんと話すと、とてもしっかりしているので年齢のことをすっかり忘れて話してしまいますが、時折見せる無邪気さがとても愛らしく、私同様、多くの人を引き付けています。この配信の後には西武国分寺線「鷹の台」駅近くの小平市中央公園で行った「ひとを旅する日」でも一緒にイベントもしました。

Profile
生産者のもとを訪れ、直接関係を築いたコーヒーだけを焙煎して届ける「Second Story Coffee Roasters」代表。愛知県出身。2018年に早稲田大学卒業後、静岡赴任中にSSCRと出会い、退職してコーヒービジネスの道へ。2020年、初代オーナーのブライアン・オダネルさんより引き継ぎ2代目オーナーに。サブスクリプションによる定期購入サービスをメインにしながら、毎週水曜日には東小金井駅から徒歩5分の「大洋堂書店」内でお店をオープン。

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投稿者

さきや 未央

★ 編集歴25年以上★「旅」と「子育て」雑誌を200冊編集★「観光とまちづくり」の取材を8年間★ 多摩の社長100人にインタビュー