ニューヨーク留学で出会った、個性的な生き方をしている人々に刺激を受け、大学在学中に起業を宣言した兒玉千夏さん。トレードマークのフォルクスワーゲンのキッチンカーで、都内・関東近郊をまわり、実家・長崎の角煮バーガーを販売しています。起業して9年、コロナ禍では新規事業にも挑戦。飲食店に関わる人が収入の柱を増やせるよう、シェフのレシピを元にレトルト商品を開発する食品製造・通販会社を立ち上げています。

|至極の一言|

“若い人たちの挑戦”を応援する文化を作りたい。飲食でもここまでできるということをみんなに伝えたい


世界進出の目標を胸に、実家の角煮バーガーを移動販売

崎谷:「eatjoy」設立までのお話をきかせてください。起業のきっかけは大学在学中にニューヨークに留学されたことだったとか。

兒玉:語学学校に9カ月、レストランのマネージメント学校に6カ月ほど通いました。帰国したら就職しなければと思っていたのですが、向こうで出会った人に「いつ起業するの?」と起業する前提で聞かれて。「4年後ぐらい」と答えたら、「できてせいぜい4.8年後だね」って言われたのが衝撃的で(笑)。「今から帰ってすぐやります!」という気持ちになりました。

崎谷:最初から角煮バーガーを売ろうと考えたのですか?

兒玉:最初はフライドポテト専門店をやろうと思っていました。ソースをたくさんの中から選んで、ディップして食べるようなベルギースタイルのお店を考えたんです。帰国後、店舗を探しましたが、素人にはなかなかいい場所がまわってこない。そのうち私が考えている規模ならキッチンカーがあると知り、キッチンカーを探し始めました。角煮バーガーは、『一風堂』がニューヨーク店のサイドメニューで出していて、現地で大流行りだったことを思い出したんです。実家の角煮バーガーは商品力のあるものだから、世界でも挑戦したいと思ったのがきっかけで、これを移動販売することに決めました。

崎谷:いろいろ模索して、身近にあった商品にたどりついたんですね。

兒玉:ニューヨークの『一風堂』で出されている商品はアレンジしていますが、うちの実家が作っているもののほうが元祖というか、長くやっている。素材のよさ、おいしさはうちの商品のほうが勝っている――だからこそ、世界を目指してトライしたいと思いました。

崎谷:フォルクスワーゲンのキッチンカーはインパクトありますよね。

兒玉:いろいろ見に行ったキッチンカー屋さんで、たまたまかわいいのに出会って。「この車があったら売れるよ」という売り文句で、「ああ、そうなのか」と決めました(笑)。


ニューヨークに実店舗を出店した経験から得たこ

崎谷:一度ニューヨークにも出店されたんですね。

兒玉:2014~15年に現地に会社を作り、ニューヨーク進出しました。不動産を100件ほど見て店舗を決め、日本から生地もタレも材料を全部輸出して、向こうで一から日本と同じレシピで角煮バーガーを作って販売していました。

崎谷:キッチンカーではなく店舗で開かれたんですね。苦労されたことも多かったのでは?

兒玉:ニューヨークは建物が古いので、物件探しでは排水管や契約年数など、気を付けて見なければならないポイントがありましたね。仮出店のときは、夜だけ営業しているレストランに交渉して、昼間だけ間借りさせてもらったこともありました。ニューヨークは生活費が高くかかるんです。自分たちの貯蓄を減らしながら、大きなことにトライすることの怖さをものすごく感じました

崎谷:それでも1年半続けられて、得たものはありましたか?

兒玉「なんでもやればできる!」と思えるようになりました。「今の生活に困ったら、海外に行って焼きそばでも焼いて売ればいいか」と思えるような精神力はつきました(笑)。


コロナ禍でレトルト商品の開発に挑戦

崎谷日本に戻られてからは、キッチンカーでイベント中心の販売に?

兒玉:コロナ前までは、土日のイベントをメインに、毎週末何か所かで出店していました。2020年3月からは出店できない状況が続いたので、ここ数年やりたいと思っていたことに挑戦しようと、レトルト商品の開発に取り組んでいます。

崎谷なぜレトルト商品を開発しようと思われたのですか?

兒玉:ニューヨークには、若い人たちが飲食で起業するのがかっこいいという文化があります。私も日本で、そういう“若い人たちの挑戦”を応援する文化をつくりたいと思い、どんなことができるだろうと考えていました。

シェアキッチンは設備投資がかかります。やる気のある若いシェフたちにレシピを考えてもらい、キッチンカーで展開するのはどうかとも考えましたが、販売場所を見つけるのがかなり大変。

たまたま冷凍弁当を販売しているベンチャー企業の社長と話をする機会があったのですが、月間1万食、3年で年商5億と聞いたんです。キッチンカーでどれだけ販売数を増やしても、オンライン販売には勝てない。

それをきっかけに冷凍弁当も考えましたが、工場への発注が多くなるし、冷凍商品は保管場所を取る……。そう考えると、常温発送が可能なレトルトなら、レシピさえ構築してしまえば海外展開も可能だなというところにたどり着きました。最終的には、日本で考案したレシピを海外の工場で作って、全米やヨーロッパに配送したいと考えています。

崎谷それでレトルト商品に行きついたんですね。メニュー開発はどのようにやっているのですか?

兒玉:本来レトルト食品は、パウチ袋に材料を詰め込んで、封をして加圧しながら完成させるんです。それではレシピ開発に時間がかかるので、今は出来合いの商品をみなさんにもって来てもらい、それをレトルト機にかけてみて、味をみながら本物に近づけていくという作業をしています。

崎谷:レトルト機というものがあるんですね!

兒玉:洗濯機みたいな機械で、熱しながら加圧します。圧力鍋みたいな感じでしょうか。菌を減滅させて常温でも持ち運び可能な商品にする機械ですが、バターや乳製品のコクはなくなってしまうんです。そこをシェフの力でどう補うかが課題。メンバーと試行錯誤しながら改善しています。

崎谷:どういうメンバーで、どんなメニューを作っているのですか

兒玉:キッチンカーの仲間や知り合いのレストランに声をかけました。参加してもらうと、将来的に売り上げの一部をレシピ料・監修料としてお支払いするという形で賛同をとっています。「レシピを渡したくない」と言われてしまうことも多いので、こちらがもっと実績を出して、目指していることをお話して、いっしょにやっていく作業が必要だと思っています。今作っているのは、グリーンカレー、ガパオライス、そしてプールドポークというアメリカの南部料理。これはアメリカ版の角煮みたいなものですね。

崎谷:若いのにいろいろ体験されて、海外も視野に入れた展望をお持ちですが、最終的に「ここまで走っていきたい」という目標はありますか?

兒玉:できるなら上場したいと思っています。飲食でもここまでできるということをみんなに伝えたい。目の前の売上だけではなく、10年後、20年後を見据えて、レシピや知恵をどうやって資産化するかということを、みんなにもっと知ってほしい。その作業をしていくことで、飲食を目指す若い人たちの目標や刺激になればいいなと思っています。

インタビュー後、すでに「チキンオーバーライス」の商品の販売を始め、2022年には「プロテインアイス」の開発が終わって、商品販売を開始するとの連絡をいただきました。販売状況はインスタで順次販売予告をしていくとのことなので、ぜひ、応援してください!!

https://www.instagram.com/ribbon_icecream_official/

2022年からいよいよ販売が開始されるプロテインアイス
<インタビュー後記>

“肝の据わった人”——それが兒玉さんの印象です。ニューヨークでの出店で苦労し、その体験が“少しのことでは動揺しない大器”をつくりあげたのでしょうか。たまCHのインタビューでは、さまざまな体験を通して、確実に行動してきたことをお話しいただきました。状況に合わせて進歩する兒玉さんの今後は楽しみです!

<プロフィール>

東京都稲城市在住。大学3年のときのニューヨーク留学をきっかけに、在学中の2009年12月に起業を宣言。2011年8月11日、長崎角煮バーガーショップ「eatjoy」をオープン。キッチンカーによる移動販売形式の店を夫婦で営む。販売するのは、実家である長崎角煮まんじゅうの老舗『岩崎本舗』の商品に、パリパリ麺の皿うどんやチーズを挟んだ、長崎グルメの進化版といえる角煮バーガー。2020年より、レトルト商品の開発・製造業にも力を入れている。

長崎角煮バーガーショップeatjoy

投稿者

さきや 未央

★ 編集歴25年以上★「旅」と「子育て」雑誌を200冊編集★「観光とまちづくり」の取材を8年間★ 多摩の社長100人にインタビュー