郵便屋さんになって手紙のカードを届けるカードゲーム「レターズ」で、2018年グッド・トイ賞を受賞。続く第二弾「オレが船長だ!」も好評の「mokumuku works」は、目澤知佳さん・志村 恵さんからなるデザインユニットです。子育てをしながら、自分たちのペースでデザインの仕事をするために独立。デザイナーとしてクライアントの仕事を請けるにとどまらず、自分たちの商品を作って販売することで、いい相乗効果が生まれていると話します。
|至極の一言|
自分たちの商品作りから、命がけで事業に取り組むクライアントの気持ちを知る
ママデザイナー2人が子育て中に立ち上げたデザイン会社
崎谷
:目澤知佳さんと志村恵さんは桑沢デザイン研究所で出会われたとか。私が知っているデザイナーさん、ここの出身者が多いです。
志村:私たちはスペースデザイン科でした。働きながら、別の大学に在籍しながら夜間に通う方もいて、年齢層が幅広いなか、年齢が近いこともあって、遊んだりいっしょに課題をしたりしていました。「TOKYO DESIGNERS WEEK」では、いっしょに椅子の展示をすることになり、昼夜生活を共にして作品づくりをしました。
崎谷
:その後、目澤さんはインテリアコーディネーターとして設計事務所に、志村さんはデザイン事務所に就職されて、プロダクトデザインやブランディングをしてきたということですが、子育てを機に会社を辞めて「mokumuku works」を立ち上げました。子育てをしながら、軌道に乗せるまでは大変だったと思います。
目澤:子どもが生まれる前後に、京都でアロマサロンを開いている方から、たまたまお仕事の依頼が来たのが最初でした。自然な流れで独立し、その後も紹介やクチコミでご縁がつながって。小田原の古民家レストランの立ち上げの際は、ロゴマーク、ホームページ、ショップカード、リーフレット…とトータルで仕事をさせていただきました。私はインテリアや家具選びの相談にものれ、志村はプロダクトデザインができるので、まとまった形で表現することができました。
崎谷
:インテリアまでブランディングできるデザイナーさんは、なかなかいませんよね。東京都農林水産振興財団のデザイナーもされているそうですね。
目澤:チャレンジ農業というのを何年かやっていて。農家さんとデザイナーを繋げてもらい新たな事業や新たな販路開拓のお手伝いをする案件です。青梅の植木屋さんのお仕事を請けました。植木の他にも本格的な苔玉を作っていらして、奥様は畑で取れた野菜を使ったり、地元の卵を使いシフォンケーキやプリンを作っていらっしゃるお店。そこのパッケージデザインなどをやらせてもらっています。青梅の無添加卵にこだわっているお菓子、すごくおいしいんですよ。
3歳から楽しめるアナログカードゲームを企画・販売
崎谷
:目澤さんは2人、志村さんは3人のお子さんがいらっしゃって大変な中、さらに自分たちの事業としてオリジナルのカードゲームを作っていらっしゃいます。作ろうと思ったきっかけは?
目澤:まず1つ目は、「mokumuku works」で紙媒体の仕事をして、印刷会社とのやりとりがあったので、“オリジナルの商品を作るなら紙で何か商品を作りたい”と思っていました。2つ目は、自分たちの身近な人、子どもたちがハッピーになるものを作ってあげたいという気持ちがあって。そういうことをふまえて考えると、カードゲームを作るのはどうかと思い、志村に相談しました。私はアナログゲーム好きな家庭に育ったので、子どもの頃からよく遊んでいたのですが、ドイツなどヨーロッパではアナログゲームを子どもたちがやる習慣があるそうです。日本にもそういうものがあってもいいんじゃないかと思って。
崎谷
:資金はクラウドファンディングで集めたそうですね。
志村:考え始めたのが2014年くらい。ちょうどアナログゲームの人気が出てきた頃でした。私も目澤の娘にプレゼントしたことがありましたが、3歳の下の子がやりたくても、お姉ちゃんに勝てないということがあって。そこに目澤が着目し、「3歳からできるゲーム」を意識して作ったらいいんじゃないかということになりました。
目澤:当時、3歳からできるゲームがなくて。そこで考えたのが「レターズ」です。本当に簡単なので、ぜひやってみてください!
崎谷:ゲームを作るのには、なにかコツがあるんですか?
崎谷
:アトリエのオープン時期にあわせての制作は大変でしたよね。
目澤:大人は少しひねったものや、先を読むゲームが好きですが、それでは小さい子は楽しめない。3歳の子は遊べません。とにかくすごく簡単で、集中してみんなで遊べるものを目指して、最初に考えたものからどんどん内容をそぎ落としていきました
。
志村:「もっとああしたい、こうしたい」「こういうカードも作りたい」という気持ちがあったのですが、ちょうど実験材料(自分たちの子ども)がいるので、子どもたちにやらせてみると、私たちがやりたいと思ったものに興味を示さなかったんです。絵も、あまり複雑すぎるとわからないし、実際に遊んでもらうことで自分たちの想定以上のことが出てきて。それを忠実に反映しました。
崎谷:子どもたちが興味のないものは削除して、興味あるものを残したんですね。
志村:カードも、触ってもらうとわかりますが、しっかりめ。極厚なんです。
目澤:そこには最初からこだわっていました。子どもはカードをなめてしまうし、普通のトランプだとつかめないことがある。小さい子でもつかめるカードにしたかったんです。
志村:紙のメーカーから品番まで徹底的に探しました。カードゲームを作っていないメーカーの紙で作ると、カード同士がくっついてしまったり、ちょっとした衝撃で曲がってしまったりするんです。
崎谷:紙はすごく大切ですよね。「レターズ」はグッド・トイ賞を受賞されて、クレヨンハウスの雑誌『クーヨン』でも紹介されましたね。
目澤:グッドトイ賞は、おもちゃコンサルタントの方が全国から選んで推薦してくださいました。子育てをしながら、ゆっくりペースでやってきたことですが、評価されて、こんな素敵な賞をいただけて、本当にありがたいです。
※グッドトイ賞は、おもちゃコンサルタントの方からの推薦を受け、全国のおもちゃコンサルタント方の投票で受賞おもちゃが決まります。
自分たちのものを作って売る体験が、デザインの仕事にも生きている
崎谷:カードゲームは通販でも買えるんですよね。
志村:私たち「mokumuku works」のサイトから、オンラインショップで購入できます。カードゲームを輸入販売されている方とのご縁があり、全国のお店にも卸していただいています。
崎谷
:第二弾「オレが船長だ!」も発売されましたね。これは「レターズ」とはどう違うんですか。
志村:「レターズ」から、3年たって、「レターズ」で育ってくれた子どもたちに向けて作りました。
目澤:5~6歳になったときに遊べるゲームがないって話から、作ってみようと。これは宝を5つ集めたら自分のものにできるというゲームで、「1」「2」「3」を使ってできる簡単な足し算を使います。
志村:うちの娘もそうですが、未就学児の年長さんぐらいの子って、足し算はまだわからないけれど、物が「いくつ」ということはわかるんです。
目澤:物が1つあることが「1」、3つあるということが「3」という数字で表されるということがまだわからない子たちに、どうやって数字と物の数をリンクさせるのかということを、子育てをしながらやっていて。そういうことをゲームにしたらおもしろいかもと思いつきました。人間味があって、表現方法としての可能性がありますよね。クラウドファンディングに2回チャレンジされたとか
崎谷:こういうものを作るのって本当に頭を使いますよね。実際にゲームができないといけないわけだし。
志村:何回も遊んで、できるかどうか実験して、感覚で感じるほうが多かったです。
崎谷
:それがいちばん大切ですよね! まだまだ家で過ごす時間が多いから、これはいいと思います。イラストも自分たちで描いていらっしゃるんですよね。
目澤:パッケージも、箱のデザインもすべて自分たちで作っています。デザインの仕事をしていると、クライアントの望むものを理解して作り出したいと思っていても、実際にはわかりにくいところもあります。こういうふうに自分たちのものを作るとなると、デザイナーであり、クライアンドでもあるわけで、それを2人でやるとけっこうぶつかるんです(笑)。デザインの仕事のときとは違って、そこが新鮮。自分たちのものを作るということは、ある意味、命がけ、クライアントの気持ちが分かるいい機会なんだと感じています。だからこそ、デザインの仕事にシフトしたときも、生半可な気持ちではできないと、よりよいものを作らないといけないと思いながら制作しています。
志村:デザインの仕事をやりつつ、自分たちのものも作る。この2本立てがお互いの刺激にもなるし、ものを売る体験も「こういうやり方をしたらよかったですよ」とクライアントに伝えられる。そこがよかったなと思っています。
<インタビュー後記>
こだいら観光まちづくり協会の冊子や「編集制作アイモ」のホームページもmokumukuworksに依頼するなど、仕事仲間としてもとても信頼している目澤さんと志村さん。たまCHでは、そんなお2人がつくったカードゲームを実際にやってみました。子どもがちゃんと持てるか、意味が分かるか、そんなことをひとつずつ検証してつくったカードゲームは大人が参加しても楽しいものでした。素材、コスト、使いやすさ、伝わりやすさ、すべてを考慮しないとカードゲームは作れません。きちんとモノを作ることの意味を楽しく学べた回でした!ありがとうございました!
<プロフィール>
子育て真っ最中の女性2人(東京都日野市在住・目澤知佳、東京都青梅市在住・志村恵)によるデザインユニット。桑沢デザイン研究所卒業後、設計事務所やデザイン事務所などに勤務し独立。グラフィック、HPデザイン、パッケージ、インテリアコーディネート、家具設計などのデザイン業務を運営。トータルブランディングも得意。親の気持ちと子どもの興味・関心をぎゅっと詰め込んだ、親子・家族で楽しむアナログゲームの企画開発も行う。<<3歳から遊べるカードゲーム「レターズ」は2018年グッド・トイ賞を受賞。>>
2018年「レターズ」グッドトイ賞受賞
2020年「オレが船長だ!~海賊トムの宝~」グッドトイ賞受賞
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