多摩ニュータウンのど真ん中にある落合団地商店街を拠点に活動する「スタジオメガネ」。「メガネを売っているんですか?」とお客さんに聞かれると言いますが、横溝 惇さん・宮澤祐子さん夫妻が2017年10月に結成した一級建築士事務所です。2020年7月にはメガネ食堂BARをカフェ「メガネキッチン」に改装。“地域に開く”建築事務所の在り方を考えながら、イベントの企画やリノベーション支援など幅広い活動は、商店街に新しい風を吹かせています。

|至極の一言|
いかにみんなが楽しめるか。そういうことをきっかけに街は少しずつ変化していく

けやきがある商店街に、建築家が事務所を構える意味

崎谷:そもそも商店街の何に魅了されたのですか?

横溝: 2016年に僕が独立する際、拠点となる場所を探していたんです。妻の実家が多摩ニュータウンで、改めて歩いたことがないなと思い散歩に出たときに、公園の中にある不思議な商店街を見つけて。ど真ん中にけやきが何本も生えているんです。空き店舗のテナント募集のお知らせがあり、すぐに写メを撮り、ここで事務所をやったらどうなるんだろうという話を始めました。

崎谷:けやきがある商店街!どのあたりに魅力を感じられたのですか?

横溝:もともと僕が勤めていた設計事務所は、ブックカフェ併設で街に開くようなことをしていました。建築家みたいな職業の人たちが街に対して開く、ということを考えるきっかけになって、それがどういうことなのか、僕らも実践しながらやってみたいと思いました。
図面を描けて、打ち合わせスペースがあればどうにかなる仕事なので、同じ多摩ニュータウンでも、団地の中という選択肢もあったかもしれません。でもそれではこの場所に拠点を置く意味がないなと思ったんです。

崎谷:私の編集の仕事も、本を作るだけでなく、関係性を作るなど街にどうアプローチしていくかを大切にしています。建築も同じで、もしかしたら作るだけということから少しずつ脱却し始めているのかもしれませんね。

横溝:商店街は地域の人たちのためのものですが、じつは僕らの建築活動もそういう気持ちでやっています。住宅であっても、地域のためのものを作りたいなと。だから自分たちの拠点もそういう場所に置いてみようということになりました。

ハード・ソフト両面のリノベーションで商店街を活性化

崎谷:横溝さんは現在、多摩ニュータウン近隣センター商店街リノベーション支援専門家ということですが、これはどういうお仕事ですか?

横溝:東京都の支援事業でもあるのですが、シャッター街や活性化が必要な商店街のハード面とソフト面の両方のリノベーションを支援することで、自治体を活性化する取り組みです。私のような建築家が入ることで、ハード面の提案もできるという意味で、いろいろ支援ができるかなと考えています。

崎谷:商店街のニーズとしては、どういう要望があるんですか?

横溝:ハード面のリノベーションのご相談もあれば、イベントみたいなものを仕掛ける、まちづくり的な提案もあります。ただのイベントというよりは、アーケードを使ったものなどその場所でしかできないような仕掛けを、商店街の人たちとしゃべりながら提案させていただいています。

崎谷:「ニューマチヅクリシャ」というグループでイベントをされたりもしているそうですね。

横溝:街を楽しんでいくような仕掛けをしている仲間たちを集めて、ここではどういうイベントができるか、どういうイノベーションがあり得るかを話し合いながら商店街の人たちや行政に提案する、ブレインみたいなグループです。リノベーション支援に関わる専門家(不動産業やアーティスト、まちづくり系の人たち)に呼び名があったら「ニューマチさんにお願いしましょう」みたいに頼みやすいかなと思って作りました。

みんなが商店街を楽しむ中で、街が少しずつ変化していく

崎谷:この場所を使って「メガネキッチン」を始められたとか。

横溝:今までは「メガネ食堂」というバーを夜に営業していたのですが、緊急事態宣言で休業中に改装しました。4枚扉を全部開けると外にあるようなイメージにしたんです。シェアキッチンに近い形で、この場所で僕らといっしょにチャレンジしたい方々といっしょにやろうと思っています。

崎谷:和菓子を出している方もいらっしゃるんですね。上品な和菓子とお茶でいい時間を過ごせました。

横溝:出店されている方のお友達に「ショッテショップ」という屋台で出店できる人がいるということで、先日はここで「ゴキンジョショーテン」というイベントも開催しました。イベントというよりプロジェクトですね。いわゆるマルシェではなく、商店街や商店というものを考え直すきっかけになることができないかと思っています。

崎谷:もっと人に集まってほしいとか、商店街の何かを変えていきたいということですか?

横溝:僕らはそんなに変えていきたいという感じはないんです。それよりいかにみんなが楽しめるか。僕ら自身も楽しむなかで、そういうことをきっかけに街は少しずつ変化していくイメージを持っています。

崎谷:「スタジオメガネ」はご夫婦でやっていらっしゃるんですよね。家族でこの商店街にいる喜びみたいなものはありますか?

宮澤:私は勤めながら(現在は育休中ですが)、ここの仕事は手伝うというスタイルです。商店街の方々は本当にみなさんやさしくて。子どもが生まれてからは特に感じるようになりました。ちょっと外で声をかけてくれたり、たわいもないやりとりに救われることが多く、感謝しています。

崎谷:商店街に受け入れられているんですね。

宮澤:何もわからないときから、みなさんが支えてくれて。この商店街のいいところだなと実感しています。引っ越す前は10年程、横浜でも商店街の一画みたいなところに住んでいたのですが、ここまで密なコミュニティができるという感じではなかったので。

横溝:もっとゆっくり、時間がかかると思っていたのですが、ここへ来てまだ3年で、こんなに街の人たちとしゃべれるようになるとは想像していませんでした。

崎谷:商店街の中の生活は、私のように外から見ているとハードルがちょっと高いんです。けれどなくなってしまったら寂しい存在。そんな中で「スタジオメガネ」さんみたいな事務所が入っていると、商店街に来やすくなってほかのお店も利用しやすいように感じます。

宮澤:じつは逆もしかりで、年代が上の方だと、お隣のお米屋さんで「隣は何なの?」って聞いて教えてもらってきましたという方もいます。私たちのような子育て世代や、もっと下の10代、20代の方が来てくれたときには、「あそこの中華屋さんがおいしいよ」とお伝えしたり。そういう相互の関係性がここでは自然と生まれているなと実感しています。

Profile】
横溝 惇さんは横浜国立大学大学院Y-GSAを卒業後、2016年までは飯田善彦建築工房に勤務。妻・宮澤祐子さんの実家がある多摩市に転居し、2017年より多摩ニュータウンのど真ん中にある落合団地商店街に「スタジオメガネ」を開設。建築事務所でありながらカフェも併設し、地域に開いている。横溝さんは多摩ニュータウン近隣センター商店街リノベーション支援専門家としても活躍。地域おこしグループ「ニューマチヅクリシャ」のメンバーとしてプロジェクトの企画・運営なども行う。

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投稿者

さきや 未央

★ 編集歴25年以上★「旅」と「子育て」雑誌を200冊編集★「観光とまちづくり」の取材を8年間★ 多摩の社長100人にインタビュー