幼少期はキャンプや海遊び、20代からは趣味の波乗りを通じて、自然の中で多くのことを学んできた渡部由佳さん。2018年7月、株式会社OSOTOを設立し、「我が子にさせたい自然体験とは?」をテーマに、家族に成長の場を提供するプロジェクトを開催しています。多くの子どもたちに伝えたいのは、自然の中でこそ本当の自分、本当の笑顔に出会えるということ。ご自身も移住した檜原村の森に、ワクワクする場所を仲間たちと作っています。

|至極の一言|
「スタジオで作り込んだ写真ではなく、自然の中で家族写真を撮りたい」

行政書士を経て出産後、カメラマンからOSOTOを起業

崎谷:「我が子にさせたい自然体験とは?」をテーマに家族の成長の場を提供するという株式会社OSOTOのテーマは、渡部さんにお子さんが生まれてから芽生えたことなのですか?

渡部:私は24歳で結婚して34歳で出産するまで10年間、夫婦でなかよく楽しく過ごしてきました。20代はずっと法律の勉強をしながらバイトをし、週に1回は二人で波乗りにドハマりする生活。子育てや教育には興味がなく、別世界みたいな感覚でしたが、実際に子どもを産んでみると、世の中で言われていた子育てのしづらさや、社会との分断、孤独が初めて我が事になって。「これはなにかやりたいな」と思ったんです。

崎谷:それまでは行政書士として監査法人でお仕事をされていたとか。

渡部:30歳目前で行政書士になり、派遣で仕事をしていたら声をかけていただいて。いい大学を出ているトリリンガルが当たり前のような場所に、高卒で入れるなんて「私はなんてツイているんだ」と思っていたんですが、3年程勤めると辛くなってきました。当時の自分は、ありのままじゃなかったなと思います。自分を作って、作り切れず、上司に怒られる日々。妊娠・出産を機に退職しました。

崎谷:写真は出産後に始められたんですか?

渡部:お金をいただくかたちで始めたのは出産後ですね。個人事業主のカメラマンとして、ママや赤ちゃんの写真を撮る仕事をしました。立川のシーズプレイスさんが運営する企業主導型の保育園に、娘を預けられることになったんです。そこではママを応援する事業も実施していて、シェアオフィスや登記を置くこともできたので、仲間といっしょに会社を興そうという話になりました。

崎谷:仕事を始めようと思ったとき、保育園は難しい問題ですよね。

渡部:今の世の中、会社を辞めてフリーランスではなかなか預けられないんですが、見つかってラッキーでした。カメラをやっている仲間と、「スタジオで作り込んだ写真ではなく、自然の中で家族写真を撮りたい」と始めたのが株式会社OSOTOです。立川だと、奥多摩や檜原が近いにもかかわらず、あまりそちらに行かないことももったいないなと思っていました。もともとキャンプも大好きなので、自然の背景と、イベントと、カメラマンもセットにした事業をできないかと考えました。

檜原村の仲間とみんなで道路や小屋を作った「MOKKI NO MORI」

崎谷:OSOTOでは「ちきゅうのがっこう」というプロジェクトを「MOKKI NO MORI」で開催されているということですが、「MOKKI NO MORI」はどういうところなのですか?

渡部:檜原村で約20年間活躍している若手の林業会社「東京チェンソーズ」が、森というか山をひとつ所有していて。その中では、産業林としてスギとヒノキを育て、大きくなったら材木として出荷するのですが、石や岩があるなどで産業林としては使えない部分が遊休資産になってしまっています。
そこで今、農林水産省でも行っているのが森林サービス。森の中で、マウンテンバイクやキャンプ、ヨガといった新しいサービスを提供するなど、木を売る以外の収入源を得ることがすすめられています。まずは森の中に人が入れるよう、道路を引き、小屋を作り…スタートしたばかりで準備段階ですが、サービスを展開しながら、参加者も含めてみんなで「MOKKI NO MORI」を作って、都心に住んでいる人も遊びに来られるような森に変えていきます。

崎谷:何もない森も素敵ですけど、こういう素敵な小屋の感じはすごくいいですね。ここでいろいろなことが行われるんですね。

渡部:「MOKKI NO MORI」はOSOTOだけで実施しているプロジェクトではなく、東京チェンソーズをはじめ檜原村で活躍するメンバーみんなでやっています。今後は「MOKKI NO MORI」を運営する事業会社も作っていこうかと考えています。(2021年秋MOKKI株式会社を設立)この小屋もみんなで集まって、仲間の大工さんが形にしてくれました。窓の形態はこう跳ね上がるものがいいとか、木を見せたいとか、仲間たちの思い付きや発想が形になった。出来上がるまではどうなるかわからなかったのですが、パッと目を引くものができました。

森にあるものを使って自由な発想でベンチを作るプロジェクト

崎谷:「ちきゅうのがっこう」ではどのようなことをされるんですか?

渡部:「ちきゅうのがっこう」は「MOKKI NO MORI」でやらせてもらっている親子向けのサービスで、子ども向けの探究学習、自然体験を行っています。初めて小屋を使って実施したのが「ベンチプロジェクト」でした。探求学習や学びの場をつくっている一般社団法人みつかる・わかるの市川 力先生をお呼びして、まずは「地球の学校」に参加したことのあるファミリーを対象に無料でモニターツアーを行いました。

崎谷:具体的にはどんなことを?

渡部:みんなで「MOKKI NO MORI」までの山道を1時間ゆっくり歩き、ベンチになりそうなところがあったら座ってみるフィールドワークで、自然からのメッセージを受け取ります。まあ、お散歩しているだけなんですが(笑)。ハイキングというより登山だろうと突っ込まれるようなところで、「これも、もしかしたらベンチじゃない?」など想いを馳せながらみんなで歩きます。

崎谷:ベンチをみんなで作るわけではなく?

渡部:普通はベンチを作るとなると、作るものが決まっていたり、設計図があったりしますよね。そうではなく、まず歩く。頭じゃなく、心とか感覚みたいなところでモノづくりをしてもらいたいという思いがあるんです。そして作るベンチは、ミニチュアでもいいし、完璧なものじゃなくてもいい。市川先生を囲んでアイデア出しをすると、子どもたちからはすごくおもしろい発想が出ました。リクライニングするベンチとか、空に浮かんでいて擬態していて見つけられないベンチとか。

崎谷:いいですね!子どもたちの反応はどうでした?

渡部:目がハートになって、キラキラしちゃっています。実際に作る材料も自分たちで調達します。森の中のものは何でも使っていいことになっていて、小屋を作ったときの端材も使えます。東京チェンソーズといっしょに丸太を切ったり。親子で力を合わせて、息が合っていないとうまくいきません。

崎谷:今後も定期的にいろいろやっていかれる予定ですか?

渡部:「MOKKI NO MORI」という場所が安定してきたので、ベンチプロジェクトや子ども向けのキャンプなどコンテンツプログラムを提供していきます。(2022年5月より年間プログラムをスタート)今後は、森の区画を個人に貸し出すことも考えています。レンタルしてくれた人たちが、あわよくばツリーハウスとかを作ってくれたら、おもしろいだろうなと思うんです。

【渡部由佳さんProfile
1982年生まれ。高校卒業後、進学せずに法律家を目指す。24歳で結婚後もパートの傍ら勉強を続け、30歳目前で行政書士に合格。監査法人で法務コンサルタントの仕事に就く。妊娠・出産を機に退職後、カメラマンだった祖父の元で子どもの頃から写真を学んだ経験を活かし、ファミリー専門フォトスタジオをオープン。2018年7月、株式会社OSOTOを設立。東京都檜原村「MOKKI NO MORI」で「ちきゅうのがっこう」を開催。2020年、家族で檜原村に移住し、公私ともに森での暮らしを楽しむ。「世界ふぐ協会」会長という顔も。

HP  https://osoto.co.jp/
Facebook  https://www.facebook.com/OSOTOHeros/

投稿者

さきや 未央

★ 編集歴25年以上★「旅」と「子育て」雑誌を200冊編集★「観光とまちづくり」の取材を8年間★ 多摩の社長100人にインタビュー