3つの名前を使い分け、マルチに活躍するフォトグラファー・濱口 太さんは、地元・西東京市に密着した活動も積極的に行っています。コロナ禍では、西東京ビジネス交流会の後援で「今やるべきことプロジェクト」として、無料で撮影することで写真を通じて飲食店を支援。また、西東京芸術振興会が主催する「西東京百姿」フォトコンテスト・写真集の制作を通じて、西東京市の今を記録していくことにも力を入れています。


|至極の一言|

写真で励ますことも有効だなと気づいた


濱口太/河村フォトン/佳川奈央 3つの名前をもつカメラマン

崎谷:「濱口 太」名義のほか、ポートレートの撮影は「河村フォトン」、料理撮影は「佳川奈央(かがわ・なお)」として活動されていますが、なぜですか?

濱口:以前、ある雑誌の特集で撮影した写真が、同じ号に数本同時に掲載されることになり、そのときにクレジット表記を変えたんです。「濱崎奈央(はまざき・なお)」とか「氷川竜妃(ひかわ・りゅうひ)」とか適当に付けていたのですが、あるとき撮影した姓名判断の先生に名前変えたほうがいいと言われて(笑)。なんの根拠もなく付けた名前だったので、それを機に今の名前に変えました。

崎谷:河村フォトンとしては、著名人も撮影されていますね。それぞれの写真にテーマ性があり、いろいろな技巧、テクニックを入れながら撮られているなと感じます。

濱口:人物の写真に限らず、写真って目的がないとダメなんです。(撮る側の)自己満足ではダメ。ポスターになるのか、チラシなのか、プロフィールなのかによっても変わってくる。写真はそのためのツールなんです。人物撮影の場合は、その人物がやっている仕事や作ったものを見たいと思ってもらえないといけない。撮られる側もプロの俳優、表現者はうまいので、撮影自体は早いですよ。撮る側、撮られる側でイメージのすり合わせができて、お互いの表現能力を理解すれば、撮影はただシャッターを押すだけの単純作業です。

崎谷:目的に向かって、ふたりで走るような感じなんですね。


「今やるべきことプロジェクト」でコロナ禍の飲食店を応援

崎谷:佳川奈央として、コロナ禍では無料で飲食店を撮影されたとか。

濱口:2020年4月後半から2カ月ほど、料理の撮影がなくなってしまい、時間がぽっかり空いたんです。腕がなまるので練習しておきたいという気持ちと、地元で何かできないかなという思いがあった。同じ頃、飲食店関係の友人から「将来の展望が見えない」「先が見えない」「どうすればいいか」という話を聞きました。営業できなくても家賃は発生しているし、冷蔵庫の生ものには保存期限もある。「どうせなら古いメニュー表を作り直したら?」という話をして、僕が写真を撮ったんです。その写真を見せたら、それまでテンションの低かった友人が「お前、写真うまいな!」と感激してくれて(笑)。友人は写真を見て、自分の店のものがこんなにおいしそうなんだと初めて気づくことができた。そこからホームページやチラシを作り直そうとか、通販も始めようとか、いろいろな構想がパーッと浮かんできて、先々の展望が見えたんだそうです。自分ができるのは、そういうことなのかなと。ひとつの方法として、そうやって写真で励ますことも有効だなと気づきました

崎谷:なにかしたいけれど、どうしていいかわからない……そういう人たちに希望を与える。写真ってすごいなと思います。

濱口:写真は機材さえあれば費用がかからないんです。台風が来て被害が出たところへ、大工さんが道具を持って「壊れたところがあったら直すよ」って街をうろうろする……そんな気持ちかな。流しのカメラマンみたいな(笑)。西東京市ビジネス交流会の後押しを受けて、「今やるべきことプロジェクト」として人づての紹介やクチコミで最終的には50件近くの飲食店を撮影しました。今までプロに写真を撮ってもらったことがない人達は、モニターを見た瞬間に、それまで低かったテンションが上がるんです! メニュー写真を一新することで、地域全体のレベルの底上げにもなると思っています。出張要望も多く、都心や他県のお店も数件撮影しました。

「西東京百姿」フォトコンテストで西東京市の今を記録

崎谷:「東京百姿(ひゃくし)」、さらに「西東京百姿」というプロジェクトをやっていらっしゃるそうですね。

濱口:「東京百姿」というのは10年ほど前からなんとなく、東京の風景を撮影して発信していたんです。青山にあった同潤会アパートが取り壊される前に、「今のうちに撮っておかないと」と思ったのがきっかけ。なんとなくいつも前を通っていた場所だけれど、改めて人物を置いて撮影してみたら、なかなか東京っぽい、いい感じの写真が撮れました。自分が住んでいる東京に、みんなが知っているようで知らない東京がある。1時間ちょっとで鍾乳洞があるところに行けたり、広い東京には不思議な場所がたくさんある。そういう場所を撮っていました。そんなことをしているうちに、地元の西東京芸術振興会に誘われて、写真コンテストをやろうという話になったんです。それを「西東京百姿」という名前にしちゃえという話になりました。

崎谷:写真コンテストは、子どももお年寄りも、誰でも参加できるプロジェクトですね。

濱口:2019年10月から募集して12月が締め切りでした。時間がなかったので、本当に応募が集まるのか心配していたら、最終日12月31日には700枚くらい集まったんです。ここから厳選して100枚の写真を選び、展示するとともに写真集を作りました。いくつかのイベントスペースをまわり、たくさんの方に来てもらいました。

崎谷:西東京市の底力を感じます。写真集も販売されているのがすごい! 私もこういうものが作りたいです。

濱口:コンテストをして、賞品を出して、写真展をするだけでは一過性でつまらない! 記録として残すべきではないかと思っています。毎年100枚ずつ作品を選んでいけば、10年後、20年後、30年後には資料になる。そんなことを考えて写真集にしました。一緒にやっている仲間にグラフィックデザイナーがいるので、ほとんど原価で作ることができた。田無駅のまちテナショップや西東京市役所の田無庁舎の売店でも売っています。2500円ですが、出展されたみなさんは2冊も3冊も買ってくれています。

崎谷:写真集になるなら応募する方のモチベーションが違いますよね。

濱口:写真は結果でしかない。大人が撮ったものも、子どもが撮ったものも、いい写真であれば写真集になる。みんなで悩みぬいて100枚を選んでいます。そうして選ばれたこの写真集を見て、「西東京市っていいところだな」と思ってもらえれば、それも写真の一つの手段。毎年、続けていけたらと思っています。

<インタビュー後記>

プロのカメラマンとして人物や料理などの撮影をしながら、西東京市を盛り上げる活動もしている濱口太さん。「今やるべきことプロジェクト」について知り、出演を依頼したところ快く受けていただきました。仕事で共感することも多く、楽しい回となりました。

<プロフィール>

東京都西東京市在住。フォトグラファー。六本木「スタジオフォリオ」スタジオマンを経て、ファッションカメラマン袋谷幸義氏に師事。独立後、広告・雑誌・webなどさまざまなメディアで活躍。本名のほか、ポートレート撮影時は「河村フォトン」、フード撮影時は「佳川奈央」と名前を使い分けて活動する。西東京市では、「西東京百姿」フォトコンテストの開催や写真集の制作に主要メンバーとして企画から携わるなど、地元に密着しながら活動。

HP http://hafu.jp/hamaguchitop.html

FB https://www.facebook.com/futoshihamaguchi


第9回 フォトグラファー/濱口太さん

投稿者

さきや 未央

★ 編集歴25年以上★「旅」と「子育て」雑誌を200冊編集★「観光とまちづくり」の取材を8年間★ 多摩の社長100人にインタビュー